アップル、開発拠点の狙いは「自動車」だ! iPhoneから広がるビジネスへの布石

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問題なのは、そうした「スマホの外にあるビジネス」は、各国の文化に根ざす部分が大きい、ということだ。特に健康や住宅関連のビジネスはそうした側面が大きい。

米国でヘルスケア機器が注目されるのは、国民皆保険制度ではなく、収入が高い層ほど健康に対する意識が高く、支出に対する意欲もある、魅力的な市場であるからだ。HomeKitではガレージやドアのカギを一括管理する機能が重視されているが、これは、米国の家が広く、そうしたものの管理が物理的に面倒であるからだ。だが、ヘルスケアにしろホームオートメーションにしろ、日本で注目される要素とはかなり異なる。

自動車関連ではメーカーとの距離が重要

各国でのニーズを分析した上でビジネスを活性化するには、その国の事情をよく知る必要がある。リサーチのためのファシリティを作り、関連するメーカーとの距離を近くすることは、大きな意味を持つ。

それ以上に自動車関連については、メーカーとの「距離」が大きな意味を持つ。現在のCarPlayは、車載カーナビの画面でiPhoneの機能を生かす、という側面が強い機器だが、走行情報の取得や自動運行に近い部分など、自動車産業の本丸に近いところへと入っていくには、関係強化が必須だ。自動車メーカーを米国に呼んで関係を作るには限界があり、日本で膝詰めの交渉をする必要がある。横浜地区には、日系だけでなく、ボッシュなど海外の自動車部品メーカーの拠点もある。そうした企業との連携も図りやすくなる。

最後のポイントとしては、優秀な国内エンジニアのリクルーティングも考えられる。優秀だが家族との関係などから、国内を離れたくない、というエンジニアも少なくない。日本に拠点を作れば、そうしたエンジニアとの交渉はかなりスムーズになるだろう。

アップルの真意はまだ読めない。しかし少なくとも、単にiPhoneを作るだけでなく、iPhoneを軸としたビジネス領域拡大戦略の中に、日本へのテクニカル・デベロップメント・センター設置が含まれているのは、まず間違いないはずだ。

西田 宗千佳 フリージャーナリスト

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にしだ むねちか / Munechika Nishida

得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、『アエラ』『週刊朝日』『週刊現代』『週刊東洋経済』『プレジデント』朝日新聞デジタル、AV WatchASCIIi.jpなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。著書に『ソニーとアップル』(朝日新聞出版)、『漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち』(講談社)、『スマートテレビ スマートフォン、タブレットの次の戦場』(アスキー新書)、『形なきモノを売る時代 タブレット・スマートフォンが変える勝ち組、負け組 』『電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』(すべてエンターブレイン)、『リアルタイムレポート・デジタル教科書のゆくえ』(TAC出版)、『知らないとヤバイ! クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?』(共著、徳間書店)、『災害時 ケータイ&ネット活用BOOK 「つながらない!」とき、どうするか?』(共著、朝日新聞出版)などがある。

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