鉄道の定時運行、裏側はこうなっている! 『東京総合指令室』を読む

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この障検動作とは、「遮断機が降りた後に人や車などが踏切内に侵入し、障検(障害物検査装置)が作動した」ことを示している。これは著者の取材中に起きた実際のケースで、その時はほかの持ち場にいた指令員たちもダッシュで手伝いに駆けつけてきたという。

指令チームは、24時間365日臨戦態勢

一刻も早く平常運行に戻すには、「初動」の早さが何よりも大切だ。異常の把握、ダイヤ復旧計画の作成、現場への指示、事故が起きた場合の報道機関への情報提供など、全てにおいてスピードが求められる。さらに終電後も作業はあるため、24時間365日、指令チームは臨戦態勢でいなければならないのだ。

そんな姿を、我々利用者は知らない。防犯性というやむを得ない事情があるにせよ、大勢の利用者にとって「当たり前」となった定時運行を縁の下で支える人たちのことを、その恩恵にあずかっている身として知っておきたいものだ。本書もそうした思いから書かれたのだろう。

本書には、指令業務に革新的な変化をもたらした運行管理システム「ATOS」や、思ったよりも大変な「途中駅折り返し」の仕組みなど、鉄道技術ライターである著者の解説が光る、技術的な話も随所に盛り込まれている。総括指令長や鉄道事業本部長をはじめとする様々な人物へのインタビューで、運行管理システムの変遷や東日本大震災時の混乱など掘り下げた内容にも迫っている。

見えない仕事に勤しむ人に思いを馳せたい

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しかし読後に浮かぶのはやはり、人目につかない場所で日夜奔走している、指令員たちの姿だ。それは想像の域を出ないけれど、この先、駅で遅延に出くわした時に湧くのはイライラよりも感謝の気持ちだろう。

また、少し大袈裟かもしれないが、指令員に限らず様々な「見えない仕事」に勤しむ人たちに対して、思いを馳せられるようになりたいとも思った。

来る東京オリンピックを里程標のひとつとして、今後も鉄道は拡大していく。大会期間中は複雑な路線網による、観光客の混乱も予想されているそうだ。現場と指令、一丸となった対応が期待される。駅はもちろんだが、指令室もまた一段と忙しくなっていくのだろう。

日々の生活からビッグイベントまで、人知れぬ場所でサポートを続ける人々に迫った本書。鉄道を利用する多くの人に、ぜひ一読をおすすめしたい。

峰尾 健一 HONZ

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みねお けんいち / Kenichi Mineo

HONZ学生メンバー。1993年、横浜生まれ。横浜市立大学在学中。5歳から高校卒業までを秋田県で過ごし、大学入学と同時に横浜へカムバック。基本的に乱読派のため、好きなジャンルを絞りきれず困っている。最近は日本文化、音楽などに興味あり。

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