実質金利が低い今は借金を増やす好機だ--ロバート・J・ シラー 米エール大学経済学部教授

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これらの国では、何年にもわたって実質金利が低下傾向を示している。特に00年以降、その傾向は顕著である。もしこの傾向が続けば、これらの国の大半では数年以内に、10年債の金利はマイナスの領域に低下することになる。アメリカとイギリスでは、5年物のインフレ連動債の利回りは今年すでにマイナスになっている。

政府の失敗が生んだマイナスの実質金利

そこで次のような質問が出てくるかもしれない。どうして金利がマイナスになることが可能なのか。なぜマイナスの金利でもお金を貸すのか、あるいは債券を買うのか。

通常、異常な税制や規制がないかぎり、名目金利がマイナスになることはありえない。金利がマイナスならば、貸し手は借り手に実質的に利息を払うことになるので、現金を手元に置いておくだろう。

しかし、実質金利がマイナスになる可能性はある。プラスの実質収益を期待できる、リスクのない投資対象がなければ、普通の投資家は、実質金利がマイナスでも投資せざるをえないからだ。

実質金利の低下を引き起こしたのは、07年から09年の金融危機ではないだろう。事実、金融危機の最中、インフレ連動型債券を発行している国の実質長期金利は一時的に急騰している。差し迫った危機から回復して初めて、実質長期金利は低下に転じたのだ。

実質金利の低下はむしろ、政府の失敗を反映したものであると考えるのが自然だ。すなわち、政府は実質金利が低い(あるいはマイナスの)ときに積極的に借り入れを行い、インフラ整備や教育など、プラスの収益を生むプロジェクトに投資すべきだったのだ。しかしながら長年にわたってインフレ連動債を発行する絶好の機会があったのに、政府は国債を発行しなかった。そのため実質長期金利が低下したのではないだろうか。

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