包帯で補強?これが最新のマンション耐震だ 見積もり4億円の工事費が7000万円に

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週刊東洋経済2014年12月6日号(12/1発売)の特集は「マンション防災修繕管理 完全マニュアル」です。大地震は間違いなく起きる。自助、共助のバランスで災害対応力を高められるか。最前線を追いました。

だが、その地震の3カ月後、本震と同程度の規模の新たな地震が発生してしまう。五十嵐社長のグループが使用可能と判定した中にも倒壊した建物があり、下敷きになった家族が命を落としてしまった。

眠れぬ日々を過ごす中で五十嵐社長は、コンクリートの表層が崩れてむき出しになった鉄筋が、建物の重さに耐えられず折れ曲がり、柱が崩壊することを突き止める。ここで、表層がはがれ落ちないように“包帯”で鉄筋コンクリートの表面を補強するSRF工法の発想に行き着いた。「夢のお告げのようにひらいめいた」(五十嵐社長)。

日本に帰国後、防災科学技術研究所や東京大学地震研究所と共同で振動実験を繰り返し、包帯補強をした鉄筋コンクリートの柱は震度7の揺れを数回与えても崩壊しないことを確かめた。現在は、マンション300件を含め、東京―新大阪間の高架橋脚約1200本など、1000件以上の補強にSRF工法が用いられている。

ピロティ付きマンションで有効

「特にピロティのあるマンションに薦めたい」と五十嵐社長は言う。ピロティとは1階に壁が少なく、駐車場や店舗等などがある建築様式だ。阪神・淡路大震災の被害率を見ると、新耐震基準でも一般的な建物が4%なのに対し、ピロティ建物は10%の被害率となっている。

ピロティをSRF工法で補強すると、倒壊を防止するだけでなく、揺れを繰り返し吸収する強靱な構造になることが実験で確認されている。従来型の補強と比べると、あまり柱が太くならないので、駐車場や店舗などの活用空間が狭くなることもない。

11月22日に発生した長野県北部地震を受けて、巨大地震への対策を再検討し始めた管理組合も少なくないだろう。もし、数千万~数億円という工事費用がネックとなり、本格的な耐震工事に踏み出せないようであれば、包帯補強を選択肢に加えてみるのも一法かもしれない。

中原 美絵子 フリーライター

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なかはら みえこ / Mieko Nakahara

金融業界を経て、2003年から2022年3月まで東洋経済新報社の契約記者として『会社四季報』『週刊東洋経済』『東洋経済オンライン』等で執筆、編集。契約記者中は、放送、広告、音楽、スポーツアパレル業界など担当。

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