プロ格闘家でも逃れられない「学歴」の壁 静岡県警を2カ月で辞めた早大卒の青木真也が語る

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「冷静」に考えつつ、「熱意」を忘れない

蔭山 収入の話で言えば、野球の世界では、入口から収入の振れ幅が大きいです。

一軍で活躍することを夢見る選手は育成契約で年収240万円。一方で期待のドラフト一位は、高卒でも契約金が1億円もらえます。

青木 期待されている選手がもらった契約金が30歳の時に残っているか、使っているかという点に興味があります。どうなのでしょうか。

蔭山 それは本人の人間性によるのですが、社会人からプロになった選手はやはり貯金していますね。それ以外選手は使ってしまっている方が多いです。

常見 今も昔も、派手な輸入車に乗っている若い野球選手は多いですよね。

蔭山 野球選手では、社会人からドラフト5位ぐらいで入って、選手生命も長い選手というのはかなり幸福なのではないでしょうか。

青木 それならば、スポーツ選手として、生涯賃金も高いですよね。僕は実は「生涯賃金」をすごく気にしているんですよ。

蔭山 そうなのですか。アスリートの多くはそういう感覚を持ち合わせていないですから、その現実的な考え方はすばらしいです。

青木 生涯賃金を計算していて、実はそこから試合をするか否かの判断をしています。例えば「この日程は難しいけど、このファイトマネ-があれば、一年間働く年数が減って、59歳まで働けばいいことになるな!」という風に考えていますね(笑)。

常見 まさに仕事として「格闘技」をとらえて、「生涯設計」をされているわけですね。

青木 そうです。「引退したアスリートを社会が守る」仕組み作りの話がありますが、僕自身の経験上でスポーツ選手がだらしないのは分かっているので、仕組みがあると「甘えてしまう」と思っています。例えば引退後に年金があって、働かなくていいと分かっていたなら、それはダメになってしまうような気がしています。常に緊張感を持って、自分のことは自分で考えて、生涯設計をしています。

常見 確かに「アスリートを社会が守る」ことが理想として語られがちだけれど、そもそも緊迫感をともなってこその「プロ」ですよね。

蔭山 まったくその通りです。緊張感がなければ、競技への「覚悟」も生まれてこないように思います。生涯設計という観点でいくと、現役中に資格や語学等の自己研鑽を少しでもしておくことが重要だと思います。

常見 やはりこの鼎談の結論は「冷静」と「情熱」論に終着すると思います。まずは「冷静」に食っていくことを考えて、生涯設計をしていく。「生きていくために働く」いう意識を持ち続けて、貯金もする。そしてその上で仕事に「情熱」を持つ。同期の生涯賃金やポジションに「健全なジェラシー」を燃やして、プロならではの緊張感を味わって、ワクワクする。これが「プロ」なんじゃないかと思います。

2回に分けてお届けしたこの議論、みなさんはどう思っただろうか?アスリートの世界という、一見、遠い世界の話のようで、これは「プロ論」そのものだ。私たちもいつか「引退」する。いま、なぜ食えているのかをまず認識し、冷静さと情熱を持って前に進もうではないか。
次回もお楽しみに!本連載で「この人との対談が読みたい」「この企業に行って欲しい」などリクエストもよろしく!

 

常見 陽平 千葉商科大学 准教授、働き方評論家

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つねみ ようへい / Yohei Tsunemi

1974年生まれ。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。同大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。リクルート入社。バンダイ、人材コンサルティング会社を経てフリーランス活動をした後、2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師に就任。2020年4月より現職。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。

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