住友金属鉱山、非鉄メジャーへの試金石、本番迎えた海外鉱山経営《新「本業」で稼ぐ》

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 09年、同社は米アラスカ州のポゴ金鉱山への出資比率を引き上げ、住友商事と共同で100%の権益を取得した。住友鉱山が操業の主導権を握る“日の丸鉱山”構想の先鞭である。ポゴ金鉱山買収の理由について、阿部専務は「オペレーションシップをとりたかったため。そこで鉱山経営のノウハウを蓄積して、ペルーやチリ、豪州の鉱山にも敷衍(ふえん)していきたい」と語る。

海外鉱山を日本人だけで操業するつもりはないが、「キーとなる部門は日本人で握り、鉱山経営に住友鉱山の意思を反映させたい」(阿部専務)。菱刈、ポゴといった自社で開発する鉱山から、現場を知るマネジメント層の育成を急ピッチで進めていく狙いがある。

実はこうした人材の育成は、海外の鉱山会社から持ち込まれる買収案件を評価する際の目利きを育てることにつながる。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)企画調査部の廣川満哉氏は、「鉱山の権益取得にはプロジェクト評価が必要だが、商社などにはその人材が不足している。鉱山の現場があれば、評価者は育ちやすい」と語る。

リーマンショック以降の資源価格急落の際、日本の非鉄会社は、持ち込まれる権益参加の案件に対して、評価者不足から十分に対応できなかったという。現在では再び価格が上昇トレンドにあることから、持ち込まれる案件も減っており、優良鉱山の売却は多くない。自社鉱山はそうした逆風下で評価者育成の格好の場となる。

当然、鉱山経営の挑戦には困難も付きまとう。鉱山経営者には作業者の労務管理だけでなく、地元住民との折衝、政府との交渉力も求められる。前出の谷口氏は「資源国では住民の反対運動が激しくなっている。世界的な大ヒットとなった映画『アバター』と同じように、先住民が抑圧される状況が現実に起こっている」と指摘する。これまで資源メジャーなどに頼っていた鉱山開発の最前線での粘り強い交渉も、今後は必要とされるだろう。

資源事業本部の狭川氏は、「日本の鉱山文化と欧米の鉱山文化は、操業からコミュニケーションの手法まで大きく違う。今はとにかく経験を積むことが重要」と語る。非鉄業界の先陣を切り、海外鉱山経営に乗り出す住友鉱山。創業400年の老舗は、資源メジャーとの差をどれだけ縮めることができるだろうか。

◆住友金属鉱山の業績予想、会社概要はこちら

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(許斐健太 =週刊東洋経済2010年12月4日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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