工場排水をカネに換える、味の素のしたたかな戦略

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工場排水をカネに換える、味の素のしたたかな戦略

工場から出る排水をカネに換える。一見、無謀とも思える計画を味の素は進めている。

アミノ酸製品で世界トップシェアの味の素。食品、肥料など商品は多岐にわたり、2009年度のアミノ酸生産量は約100万トンに上る。サトウキビなどの糖質原料から発酵法で生産される際、冷却や設備の洗浄などに生産量の数十倍もの水が必要だ。その量、実に年間7000万トン。

排水には、抽出しきれなかったアミノ酸や窒素が含まれ、河川にそのまま排出されると酸素濃度が低下し、魚の大量死や農作物の不作につながる。1970年代から、先進国を中心に排水中の窒素量などの基準値が設定されるようになり、過去にはブラジルなど国内外で排水問題の訴訟を抱えたこともある味の素にとって、長年にわたり、排水対策は大きな課題となってきた。さらに、海外売上高の約4割を占める東南アジアでは、日本より厳格な基準が設けられている。

2008年、競合の台湾系企業・味丹国際では排水処理が経営を揺るがす大問題に発展した。ベトナムの資源環境省は、味丹国際のベトナム工場が適切な処理をせずに排水を河川に流したと告発。一時操業停止に追い込まれ、10年8月には周辺地域の農民に対して1180万米ドルの賠償金支払いが命じられた。これが味の素には思わぬ追い風となった。

需給が逼迫し、アミノ酸調味料などの採算が大幅に改善。09年度の営業利益は最高益に迫る水準となり、10年度4~9月期も半期での最高益を達成した。今もアミノ酸調味料は「異常値」(伊藤雅俊社長)という高価格が続く。

味丹国際の問題は味の素にとって「対岸の火事」ではない。生産を統括する永井敬祐取締役常務執行役員は「東南アジアの基準は日本より厳しく、100点満点は難しい」として、同時期に味の素のベトナム工場でも排出基準値を上回り、行政から指導があったことを明かす。

味丹のような事態に追い込まれることはまれだ。それでも、味丹では排水問題が小売店からの商品撤去に発展するなど、対応を間違えば大きな経営リスクになるのは明らかだ。

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