体制固めに武力を使う北朝鮮の「内部事情」

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一方、後者の見方も有力だ。“デビュー”させたばかりの三男・金正恩への後継体制固めには、「軍の権限を掌握し、実際に動かせる」ことを示す必要がある。特に「先軍政治」を標榜し、軍優先の政治を行ってきた金正日体制としては、当然、打っておくべき布石だろう。

ただ、後継者登場前から北朝鮮の権力層では「『緊張』という言葉がキーワードになっている」と、朝鮮労働党関係者は打ち明ける。これは「軍の内部にも世襲に反対する勢力がいるため」(同)で、政権内部に不安定要素が残っているからだという。

それは後継者本人もわかっているようだ。2009年4月には、「後継体制の障害になる」と、平壌滞在中の異母兄・金正男宅を、情報機関が金正恩の指示で急襲した事実を韓国政府は確認している。「緊張要因をつくり国を統制するのは金総書記お得意の方法」(北京の北朝鮮関係筋)。しかし、その緊張の犠牲になりうる周辺諸国はどう対応すればよいのか。日本を含め周辺国は難題を突き付けられている。

(週刊東洋経済2010年12月4日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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