日テレ“女子アナ”内定取り消しは「性差別」 “男子アナ”は全員、「銀座のクラブ」経験ゼロなのか

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セックスワークとは何か?

大学院を含めて私のゼミには今まで、広義のセックスワーク(性労働)と呼ばれるものにアルバイトでかかわる学生さんが複数いました。「広義の」と表現したのは、セックスワークを買売春に限定せず、AV女優、キャバクラ、バニーガール、ホステスなどを広く含めて考えるからです。

このセックスワーク、実は定義をしようとするとかなりやっかいです。何らかの意味で「性的サービス」が金銭を対価として提供されることを指すわけですが、身体接触がないものについてどのように判断するかは、学問上の概念としても、合意された基準があるわけではなく、そのときの議論によって違いが生じます。

たとえばバニーガール、あるいはミニスカートや水着姿のイベントコンパニオン。これらはいずれも女性の外見の持つ性的魅力が仕事の重要な部分を構成していると考えられ、当事者の意図とは別に、少なくとも広い意味ではセックスワークに入れることもできるでしょう。

今回、問題となったホステス。いわゆる水商売と言われるものですが、銀座にある普通のクラブのようですので、顧客との身体接触は原則としてはなく、あくまで客との対話が重視されるはずです。このケースで女性の「性」が取引されたと見るのかについては、議論の余地があるでしょう。むしろこの仕事で重要なのは、相手の話を受け止め、楽しませる対話力のようなもので、「性的サービスとは無関係」との立場もありえます。

ただ、だとすると日本テレビの判断は、セックスワークですらないものについてまで「前科」を問うことになり、その立場はより広い範囲の職業について問題視しているということになります。ここでは、女性の外見を含めた「性」がホステスという「商品」の重要な一部であったと考えることにして、これを広義の意味でのセックスワークに含めて、議論してみましょう。あえて言えば、(日テレの立場から見て)「より『重罪』である」という仮定に立って議論をするのです。

セックスワークという概念は、そもそもジェンダー論の中でこれを認めるかどうかについて、議論が分かれます。女性の性が男性によって買われているという点を深刻視する立場に立つ人たちは、これを「ワーク(労働)」とは認めず、搾取であると考えます。「セックスワークを認める」という議論自体が、実は最低限の「自己決定」が、働く当事者の側にある、ということを前提とするのです。私はその立場に立ちます。

今回のケースでは女性は、自ら納得してこのアルバイトをしたと考えられます。この「自己決定」を前提とする議論が登場したことで、買売春やそのほかのセックスワークに関する議論は、難しい判断を迫られるようになりました。

自ら面接を受けて売春をしたり、アダルトビデオに出たりしたのだとしたら、そこには「労働」があるだけで、性差別はないといえるのか? 男が女を買う、という問題を消去してこの問題を論じてよいのか、といった批判を、セックスワーク論に立つ私は、受けることになるわけです。

「清廉性」という時代錯誤

しかし、日テレが今回取った立場は、そういったフェミニズムやジェンダー論の一部からある反対意見とは180度方向の違う反対論です。日本テレビは、アナウンサーには「清廉性」が求められ、ホステスという職歴はそれにそぐわないと主張したのですが、この「清廉性」とはいったい何なのでしょうか?

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