(第41回)日本の大学教育は社会の要請に無反応

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社会から隔絶している日本の大学

日本の大学はなぜ社会の変化に対応しないのか? いくつかの理由がある。

第一は研究資金だ。アメリカのように研究費における外部資金の比率が高いと、社会的な要請が低い分野には資金が集まらなくなるので、研究の方向を変えざるをえなくなる。ところが従来の日本の国立大学では、外部資金にあまり依存しなかった。独立法人になってから外部資金の比率は高まっているものの、まだ低い。

第二は、学生の就職だ。実際の経済で小さな比重しか持たない産業では、卒業生の就職先がないから、学生が集まらなくなる。だから縮小せざるをえなくなる。私立大学が農学部を持てないのはこのためだ。他方で、旧帝国大学だと大学名そのものにかなりの意味があるので、農学部卒業生は農業以外の分野に就職できる。

第三は言葉の問題だ。仮に日本の学生が英語を使えるなら、学生は外国に行ってしまうだろう。それに対応するには、日本の大学も変わらざるをえない。実際、オックスフォードやケンブリッジなどのイギリスの伝統的な大学がビジネススクールを導入せざるをえなくなったのは、そうしなければ学生がアメリカに流出してしまうからだ。日本の大学はそうした圧力からも無関係だ。

こうして日本の大学(特に旧帝大)には、社会からの圧力がほとんど働かない。アメリカやイギリスの大学とは本質的に異なる環境下にあるのだ。

では社会の要請を大学に伝えるために、大学をどのように、そして誰が変えればよいのだろうか。もし前述のようなことが原因だとすると、内部からの大学改革は、ほぼ不可能と考えざるをえない。日本の大学は、深刻な制度疲労に陥っているのである。研究資金が外部資金で賄われることとなれば変わるだろうが、それが本当によいことかどうかは、わからない。


野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)


(週刊東洋経済2010年11月27日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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