インドに日本以上の「家族的経営」があった! 創業103年でストライキゼロの2輪車メーカー

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また、ある種の厚生施策としてユニークなのが、社員食堂で使う油やコメの質、スパイスの量などを厳密に監視していることだ。社員が職場で健康に良い食品を摂取できるように――という狙いだという。

同社において、会社と社員の関係は、定年退職後も変わらず密接なままで続く。グループの人事部が、退職後の資金管理や医療費の計画作成などの手助けをするのだ。社員の子供に対する奨学金も、変わらず継続される。このほか、祝祭賞与や社員福祉総合対策などと呼ばれる多くの福利厚生も、社員の視点に立って考えられたものだ。また人事面でも、上級管理職にある人はすべての社員と年に3回交流を図ることが義務となっている。管理職と一般社員との間のコミュニケーションは相当風通しが良さそうだ。こういった取り組みのすべてが、会社の統制を維持し、グループへのロイヤルティを高めるために精緻に設計されている。

TVSグループのバスは正確に運行

結果として生まれた良好な労務関係は、事業面でも大きなプラス効果を発揮している。業種柄、総合的品質管理(TQM)や総合生産保全(TPM)といった近代的な生産管理方式の導入が必要になるのだが、TVSでは導入する際に問題が生じることがなく、そのことが他社との競争上有利に働いているという。経営におけるさまざまな側面でのチャレンジが、いつでも円滑にできるということだ。

またTVSが消費者から強い信頼を勝ち得ているのも、良好な労務関係に一因しているといえそうだ。たとえばTVSのバス事業は車両の故障がなく、インドでは珍しく運行の遅れがないことで有名。乗客がTVSのバスの到着に合わせて時計の針を合わせるのはよく見る光景だった。この正確さが、社員の精勤ぶりに支えられているのは想像に難くない。

TVSは現在でも創業者一族が経営を握っており、子会社の上級管理職はみな一族から選ばれている。だが一族は、そのほかの社員を使い捨てのできる労働者とは決してみなさず、大きな家族の一員として大切に扱っている。ストライキが起こらないだけでなく、農村の小さなバス事業者が巨大コングロマリットへと成長できた秘密はここにある。

帝羽 ニルマラ 純子 インドビジネスアドバイザー

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ていわ にるまら じゅんこ

インド共和国・バンガロール生まれ。法政大学大学院修了。来日以来14年間で、日印コンサルタント会社起業を経て、現在インドビジネスアドバイザーとグローバル人材トレーナーとして活躍。著書には、2013年にインドの諺について日本語で解説した『勇気をくれる、インドのことわざ』がある。インドの諺を日本語で紹介する本の発行は、長い日印の歴史でもこれが初。2014年には『日本人が理解できない混沌(カオス)の国 インド1―玉ねぎの価格で政権安定度がわかる!』 『日本人が理解できない混沌の国インド2―政権交代で9億人の巨大中間層が生まれる』発行。

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