ソニーのスマホ事業、今やるべき4つのこと 生き残りのために必要な戦略とは?

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3番目に必要なのが、経営のグリップだ。経営の意思をグローバルに徹底させて、地域ごとのスタンドプレーを抑える必要がある。Xperia Zシリーズが高い評価を得て、国や地域によっては人気商品になっているとは言え、いまだにアップルやサムスンの存在感には遠く及ばない。にもかかわらず、高い評価を受けるようになると、すぐに商品企画の現場担当者からは、「作り手のエゴ」が出始めるものだ。

派生モデルやカラーバリエーションが無駄に増えたり、長期的な視野に立った戦略が見えないものの注目を浴びやすい飛び道具を試したくなる。しかし、1台に多くの機能要素が詰まり、利用者層も幅広いスマートフォンのような”汎用”機器は、慎重に機能を吟味しなければブランドを構築できない。

ひたすら本質を追究すべきで、それによって製品数削減とメカ設計サイクルの長期化が実現できる。そのためにも、十時氏はXperiaシリーズの商品戦略をなるべく早く明確化し、社内に対して進むべきベクトルを明確にせねばならない。

4番目に必要なこと

こうした3つの戦略により、短期的にはボリュームが落ちる可能性がある。しかし同時に、ボリュームを伸ばす戦略が不可欠だ。

スマートフォンのハードウェアは、パソコン事業と同様、ボリュームのないメーカーは厳しい。主要な仕入れ先と有利な取引条件を維持できなくなり、競争力を失っていくためだ。

ソニーは世界で販売されるスマートフォンの4割近くが流通する中国での販売を諦めたことで、出荷ボリュームを急伸させるシナリオはなくなった。その中でスマートフォン上位機のシステムLSIを寡占しているクァルコムとの関係を、今後も維持できるよう、目配せをしなければならない。

OSについても同じだ。Xperia Zシリーズの躍進でグーグルとの関係が良くなっていたソニーの立ち位置が、これまでと変わらないよう関係を保つ努力も必要となる。グーグルはAndroidスマートフォンベンダーの中で突出していたサムスンを牽制するかたちで、ソニーとの関係強化を図っていた。しかし、Androidコミュニティにおけるソニーの存在感が落ちてしまえば、グーグルはシャオミなど中国新興メーカーとのパートナーシップを強化に軸足を移すかもしれない。

その中でソニーが存在感を示していくためには、4つめの戦略が重要になる。テクノロジーやトレンドのリーダーとしてAndroidコミュニティに新たな風を、積極的に送り込む必要がある。サムスンはマーケットリーダーであったが、振り返ればGalaxy NOTE以外に新たなコンセプト、トレンドを定着させることはできなかった。ソニーは機種を絞り込んだ分、そうした未来志向の領域に資源を投入して存在感を示し、クァルコムやグーグルとの関係を維持し、その中からボリューム面でも成長していくキッカケを見出す必要がある。

現在は、様々なエレクトロニクス製品の価値が、スマートフォンという巨大なブラックホールへと吸い込まれてしまった状況といえる。この分野での存在感を出せなければ、エレクトロニクス企業としてのソニーは行き場を失う。それだけに、スマートフォンの事業戦略をきっちりと立て直していく必要がある。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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