エンジニアが老舗旅館とトトロの木を救う 旅館再生物語から生まれた新しいビジネス

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また、将棋や囲碁が好きな人なら、数々のタイトル戦が行われることや将棋の世界で有名な「陣屋事件」の舞台になった旅館としてご存じだと思います。しかしそんな老舗旅館も、数年前には経営難にあえぎ、いつ倒産してもおかしくない状況にありました。

鶴巻温泉にある老舗旅館、元湯陣屋。1万坪の広さの庭があり、一歩入ると別世界が広がっている

「ホンダを辞める1カ月前まで、辞めるつもりはありませんでした。しかし母から旅館が大赤字で、このままでは倒産せざるをえないと聞きました。他人に任せるのか、自分でやるのか。自分の2歳になる息子も借金を背負ってしまうことや、自分が生まれ育ってきた陣屋旅館に対する思いもあって、自分でできる限りやってみて倒産したほうがいいという思いになりました。

それに旅館を売ろうにも、大手を含めてどこも取り合ってくれず、唯一買うと言ってくれた会社も、買い値がたった1万円。私にはホンダに残るという選択肢はなく、元湯陣屋の経営を何とかしなくてはいけないという状況になったのです」

後を継ぐというよりも、倒産寸前の旅館を立て直さざるをえない、そんな最悪の状況で旅館を引き継ぐことになった宮﨑さん。しかしながら、そこからわずか5年で元湯陣屋の経営を立て直し、売上を2.9億円から4.3億円へ拡大、そして利益が出る体質に変えたのです。

それだけでなく、旅館業界では異色とも言える、毎週2日の休館日を設定することで、高い従業員満足を得ることができるまでなっています。

しかし宮﨑さんは、前職のホンダでは燃料電池の開発に長く従事していたエンジニアであったため、経営の経験はもちろん、旅館業界での経験もありません。普通に考えれば、そのような人が5年という期間で経営の立て直しをおこなうのは難しいように見えます。

そこにはまったくの異業種から来たこと、そして逆に業界知識がなく、まっさらな視点で旅館業界が持つ問題点と向き合えたことがありました。

「最初、元湯陣屋に来た時に、パソコンを使える人が1人しかいないことに驚きました。とにかくすべてアナログになっていて、お客様の情報共有なども広い敷地内をスタッフが走って行われていたのです。実際にお客様からのクレームを分析してみると、ほとんど情報共有が原因。それを見て、とにかく情報共有を効率化して、お客様情報のコミュニケーションに時間をもっと割き、その情報をきちんとスタッフで共有できるように、システムを導入しようと決めたのです」

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