広い中国、「内陸部」というフロンティア 慌てて東南アジアへ行く前に考えるべきこと

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それに、上記のA社のように、一度、撤退を決めた途端に、他の企業に取って代わられてしまったという話も聞く。中国企業は、本当にしたたかで商魂逞しい。事業再編を行うにしても、隙を突かれないように注意が必要だ。

また、移転先の東南アジアのインフラ、電気や水道が想像以上に貧弱であったり、人材の確保が困難なための「出戻り」という話も聞く。そうした企業によれば、不満は多くても、中国には長らく外資企業を受け入れてきたことによる一日の長があるようだ。

人材に関しても、一定の技能を持った人材を、一時に大量に集めることができるのは中国ならではだったと、他国に行って初めて気づいたという声もある。東南アジアに、チャイナプラスワンを築くのは容易ではない。

チャイナプラスワンのもう一つの選択肢とは?

私は、チャイナプラスワンのもう一つの選択肢として、B社のように「中国内陸部への進出」を加えるべきだと考えている。

カントリーリスクを避けることはできないが、もし、他国への主な移転理由が人件費の問題であれば、少なくとも一考する価値があるだろう。

最近の中国では、春節休みの後に労働者が都市部に帰ってこないという現象が見られる。「都市部より給料が安くても、物価の低い地方都市で暮らす、いわゆる“Uターン就職”が盛んになってきている。だから、地方都市でも技能を持った労働者が採用できるようになってきた。これに合わせて、例えば、上海→昆山→南京→合肥といった具合に、製造業のエリアが内陸に広がっています。」中国で長年、日系企業の経営支援を扱う彦陽コンサルティングの李陽根代表はこう言う。

沿岸都市部と比べると、格段に人件費が安く、地方政府の政策でインフラや優遇策が整ってきていることに加えて、何よりも、中国内でバリューチェーンが張り巡らされている事業にとっては、「国内」であることの意味は大きい。

B社のように、中国沿岸部→東南アジア→内陸部というケースはその典型的な例だ。

失礼な表現になるが、“中国進出ブーム”に乗って中国に進出し、コストで立ち行かなくなり、今後は“東南アジアブーム”に乗って、あまり考えずに、そちらに行こうとしているのではないかと思われる企業も散見される。

現在の海外事業は、以前よりも複雑になっており、個別企業の事情によって最適な答えは異なってきている。“ブーム”に乗っていては、目も当てられない失敗をする可能性が高い。「出戻り」企業が、それを象徴している。

海外進出の目的、事業のバリューチェーンの構造、将来のビジョン、中国のカントリーリスクなどを考慮した上で、現在の中国沿岸部中心の事業を、①中国内陸部に移動させる、②東南アジア等の他国に移動させる、という2段階で考えることが必要なのではないかと思う。

大城 昭仁 インヴィニオチャイナ 総経理兼CEO

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おおしろ あきひと / Akihito Oshiro

野村證券、独立系投資会社を経て、2004年に株式会社インヴィニオ入 社。総合商社、製薬、化学など100社を超える上場企業において、新規事業開発、次世代経営者の育成、グローバル組織開発などのプロジェ クトを主導。2011年より現職。上海市浦東新区外商投資企業協会常務理事。中国の大手研修雑誌の理事も務める。

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