ロシアの侵攻で露呈「安倍政権」重すぎる負の遺産 北方領土問題はマイナスからの仕切り直しに

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2020年9月に安倍首相が退陣、後継の菅義偉政権、岸田文雄政権でも北方領土問題での進展は見られなかった。そうした中で、ウクライナ情勢が緊迫。2月24日にロシア軍の侵攻が始まった。岸田首相は、欧米各国と足並みをそろえ、ロシアの侵攻を「力による現状変更の試み」として厳しく非難。プーチン大統領らロシア要人の資産凍結や最恵国待遇の停止などの経済制裁に踏み出した。

ロシアのウクライナ侵攻は、軍事拠点だけでなく病院や学校なども標的とされ、子供を含む市民の犠牲者が急増している。ロシア軍はウクライナ軍の抵抗の前に苦戦を強いられており、日本や欧米による制裁でロシアの市民生活も疲弊している。

そうした中で、ロシア政府は日本との北方領土・平和条約交渉や共同経済活動の打ち切りを通告。岸田首相は「今回の事態はすべて、ロシアによるウクライナ侵攻に起因している」「日露関係に転嫁しようとするロシアの対応は極めて不当で、断じて受け入れられない」と反発している。日露関係が大きく後退することは必至だ。

不法占拠された4島の一括返還を求めるのが当然

そもそも、外交交渉は国力や国家の歩みを反映するものでなければならない。日本が太平洋戦争での敗戦から立ち直ろうとしていた1956年にソ連との間で合意した共同宣言で「歯舞、色丹2島の引き渡し」が明記された。当時の日本は国際社会への復帰もままならず、経済も回復途上だった。その後、平和憲法の下で経済成長を成し遂げ、国際社会でも経済協力を拡大、先進国の仲間入りを果たした。

一方のソ連・ロシアはどうか。チェコスロバキアに軍事介入(1968年)して民主化を弾圧。アフガニスタンにも侵攻(1979年)して傀儡政権をつくった。ソ連崩壊後もロシア国内では民主化の動きを押さえ込み、2014年にはウクライナのクリミアに軍事侵攻して併合。これには国際社会からの制裁が続いている。

そうした両国の歩みを考えれば、北方領土交渉で日本が1956年の合意を超えて、ソ連・ロシアに不法占拠されてきた4島の一括返還を求めるのは当然であり、譲歩すべきなのはソ連・ロシア側である。日本外交はそうした原理原則を掲げたうえで、交渉を進めるべきだったが、安倍政権では成果を焦るあまり、前のめりの姿勢で妥協案を提示し、プーチン大統領にかわされ続けたのが実態だ。

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