(第48回)脳ドック受けますか?(その2)

山崎光夫

 前回、脳のMRI検査は何を言われるか怖くて受けないという医者の話を書いた。 ところが、私はMRIによる頭部検査を受けたことがある。実は私も検査は怖かったが、めまいと立ちくらみを覚えて、その原因を追究しようと検査を思い立ったのである。さらに、子どもの頃、頭部に落下物を受けて意識を失った経験があるので、その怪我の影響をチェックしたいという気も以前から持っていた。

 めまいだけだったら、おそらくMRI検査を受けなかったと思う。だが、幼少期の“失神”体験のトラウマに決着をつけたかった。血の塊りでもできているかもしれない・・・。

 検査当日、上半身に検査衣をまとい、トンネル状の大検査装置の中に上半身を納めた。閉所恐怖症者としては、この狭い筒の中は気持ちのよいものではない。トンネルの天井部が目の前にある。現在では、トンネルの上部が開放された圧迫感のない改良型の検査装置も開発されている。
 検査中に気分が悪くなったり、異常を感じたら呼び出すボール状のボタンを手渡される。
 やがて、MRI装置が作動し、工事現場のような騒音が耳元で聞こえ始めた。

 20分程度の検査自体に苦痛は一切なかった。
 結果では、“失神”の後遺症はなかった。考えてみれば、50年も前の傷が脳内に残っていたなら、文筆業どころか、満足に日常生活も送れなかっただろう。
 だが、ラクナ脳梗塞が2~3箇所ある、との診断を受けた。
 「ラクナ脳梗塞?」
 聞き慣れない言葉に私は一瞬、不安を覚えた。

 ラクナ脳梗塞は脳の細い血管が詰まって起こる小さな梗塞をいう。動脈硬化が最大の原因という。
 診断した脳外科医は、
 「高齢者なら程度の差こそあれ、誰でもあるものです」
 とさして深刻そうではない。
 日本人は、人種的に細い血管に梗塞を起こしやすいという傾向にあり、その結果、ラクナ脳梗塞も日本人に多いものらしい。

 私はすでに還暦を過ぎている。人間を60年以上もやっていると、ラクナ脳梗塞の1つや2つはあるだろうと考えた。
 勝手に、
 「らくな(楽な)脳梗塞だった」
 と胸におさめた。

 こうした一連の話を、以前、取材でお世話になった脳外科の専門医に話したら、笑って、
 「今の脳外科の手術は極めて安全。自動車の運転のほうがよほど危ない。安心して手術にのぞんでください」
 と言われた。
 ひと昔前とちがって、脳外科の手術も格段に安全になった。

 怖がってばかりいないで、MRI頭部検査を積極的に受けたほうがよさそうだ。瘤(りゅう)や大きな梗塞、腫瘍などが見つかれば、すみやかに対策を講じたほうがよいと思う。

 さて、あなたは脳ドックを受けますか?
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』『二つの星 横井玉子と佐藤志津』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
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