人工地震を信じる人々が映す「陰謀論」深刻な浸透 「情報の民主化」は「偽情報の民主化」でもある

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かつてSF作家のアーサー・C・クラークは、「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」と言ったが、現在のわたしたちを惹きつけている陰謀論の根底には、驚くような災厄のすべてに人為的な計略の痕跡を見いだすことによって、地球を随意に支配できる全能の存在を仮定してしまう心的メカニズムであり、その全能の存在の手足としての「科学技術の魔法化」(超科学!)といえる。

気候危機の時代は、世界中で前代未聞の異常気象が次々と巻き起こり、人々が住む場所や仕事を失い、インフラや産業基盤が深刻なダメージを受けるとともに、水資源や食糧の安全保障が国際的に重大な争点となっていく。

だが、ウクライナ侵攻でロシアが仕掛けた情報操作のように、災害の原因を外国の気象コントロールのせいにする可能性がある。ジオエンジニアリングを兵器開発と捉え、攻撃の正当化を図るシナリオもあり得る。「異常気象の政治化」といえるもので、ここに温暖化に懐疑的な気候変動否認が加わるとさらに厄介なことが起こる。

過激な積極行動主義に傾く余地は常にある

温暖化が嘘っぱちだとする立場からは、エスカレートする自然災害の数々が、総じて気象兵器によるものと解釈され、気象コントロール系の陰謀論はますます焼け太りしかねない。

コロナ禍で急増したディープステート(闇の政府)信奉者、反ワクチン陰謀論者などが唱える人口削減計画という被害妄想で結ばれると、気候危機は、気象兵器による人減らしを隠ぺいするためのフェイクだという物語が強い訴求力を持つだろう。ディスインフォメーション(故意に流される偽情報)の日常化における「情報の民主化」とは「偽情報の民主化」でもあるからだ。

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わたしたちはコロナ禍で、次世代通信規格である5Gの基地局が燃え上がったり、アメリカの連邦議会議事堂が襲撃されたり、ワクチンが大量破棄される光景などを目にしてきた。気候危機の時代の陰謀論は、より個人の安全や健康に直接関わるものだけに、過激なアクティヴィズム(積極行動主義)に傾く余地は常にある。

わたしたちを待ち構えているのは、恐ろしいほど滑稽でありながら、信じがたい犠牲を生み出す悪夢かもしれない。

真鍋 厚 評論家、著述家

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まなべ・あつし / Atsushi Manabe

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。 単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。(写真撮影:長谷部ナオキチ)

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