3月からFRBの金融政策はどう動いて行くのか アメリカ経済と金融政策に詳しい小野亮氏が解説

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――市場では、高インフレがスタグフレーションリスクにつながるとの懸念がある一方、FRBの引き締めが景気のオーバーキルにつながるとみる向きもあります。

インフレが家計の購買力を奪うのは事実だが、問題はその度合いだ。市場は2月のCPI(消費者物価上昇率)が8%近い上昇となったことに目を奪われているが、雇用者報酬の伸びはそれ以上だ。2月雇用統計から見ると、2月時点の雇用者報酬の伸びは10%前後になる。

実質所得の大幅な伸びの原資の1つが、日本で今話題になっている交易利得で、日本ではウクライナ侵攻前の2021年10~12月期時点で、交易利得がマイナス9.4兆円、前年同期差ではマイナス13.8兆円と、実質所得の大規模な海外流出が起きている。実質GDP(国内総生産)でみる以上に日本経済の所得環境、つまり実質GDI(国内総所得)は脆弱だ。

高インフレ下でも経済強く、むしろ引き締め強化も

翻ってアメリカはどうか。筆者の試算では、同期間のアメリカの交易利得はプラス5311億ドルで実質GDP比2.7%に相当する。前年同期差でもプラス1084億ドルと大幅に増加している。世界有数のエネルギー・農業大国であるためだ。

さらにアメリカの家計には、6.4%の貯蓄率というフローでみたバッファーと、昨年末時点で3.1兆ドルの流動資産というストックのバッファーもある。これは決済性預金・通貨と定期・貯蓄預金について、2010~2019のトレンド対比でみた上振れ額だ。

こうした点を踏まえると、アメリカ経済が高インフレ下でも強さを維持し、むしろ、FRBの漸進的引き締めではインフレ退治は間に合わない可能性が無視できない。ウクライナ情勢によって、FOMCが様子見を迫られる状況も想定されるが、逆に、0.50%ポイントの連続利上げというシナリオも想定しておく必要がある。

次ページ第1四半期の金融ショックと景気の落ち込みはありうる
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