菅首相にいま必要な「三条件」

菅首相にいま必要な「三条件」

塩田潮

 代表再選を果たして2カ月というのに、菅首相の影が薄い。

 国会答弁もメモに頼る。目を閉じ、あごに手を当てて考え込む姿をよく目にする。強気一本槍だった野党時代とは別人のような印象だ。補正予算は未成立、小沢元代表の国会での説明問題も未解決、加えて尖閣のビデオ流出など統治機能の不全も露呈しているのに、首相の明確なメッセージはない。8日に国会で「どこまで頑張り切れるかわからないが、石にかじりついても頑張りたい」と政権担当への強い意欲を語ったが、自信のなさを吐露しているようにも聞こえた。

 代わってパワーを発揮しているのが仙谷官房長官だ。9月の代表選で菅首相の尻を叩き、釘を刺し、ネジを巻いて「対小沢戦争」を貫徹させ、再選の原動力となったのが現在のパワーの源泉である。新体制の布陣も「仙谷人事」といわれた。形式的な最高権力は首相にあるが、実質的最高権力は現在、菅首相ではなく、仙谷氏が握っていると見られる。

 過去にも首相以外の人物が実質的最高権力を握り、「キングメーカー」「闇将軍」「陰の首相」の存在が問題になったことが何度もあったが、いまや政権内の政治力学は仙谷氏を軸に動いている感がある。代表選以来の「小沢・仙谷戦争」に加え、仙谷氏と岡田幹事長の微妙な関係、盟友のはずの前原外相との隙間風、果ては首相と女房役の官房長官の「家庭内不和」説まで流れ始めた。

 仙谷氏の突出、越権を批判する声もあるが、最大の問題は菅首相が実質的最高権力を掌握できていない点にある。実質的最高権力の掌握には、かつてはカネとポストを配分できるパワーが必要といわれたが、首相の指導力強化が制度的に確立した現在は、それ以外に、政策決定権とそれを支える国民の広範な支持が欠かせない。

 政策決定権の確保には、首相自身の政策提起能力と政策決定力、政策決定システムの確立と活用という三つの条件が必要だ。まずこの三条件を備え、それを国民が支持するという形に持ち込まない限り、菅首相は現在の苦境を脱することができないのではないか。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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