福島で進む「被災者のリタイア」に見た根深い危機 原発事故と向き合ってきた現場に世代交代の波

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作業終了となって自動車で家路についたはいいが、途中でガス欠になってしまった。車を乗り捨て、20キロ以上歩いて家族の待つ自宅に向かった。

路上に落ちていたマフラーを拾って首に巻いて早春の夜気の寒さを凌いだ。途中で沿岸が燃えているのを見た。店じまいをしているコンビニを覗くと、店長が「これでもいいですか」と言って、蒸し器の電源が落ちたばかりの“あんまん”を分けてくれた。ようやく自宅にたどり着いたときには、深夜になっていた。

だが、海岸から数百メートル入ったとこにあったはずの家は、そこにはなかった。集落もろとも破壊されていた。

「真夜中に戻ってみれば、家の土台だけが月に照らされてたんだものなぁ……」

家族を支えるために再び福島第一原発へ

一緒に暮らしていた娘2人と妻は、避難していて無事だった。だが、新築したばかりの家と家財を失った。

そして家族を支えるために仮設住宅から再び通ったのが福島第一原発だった。しかし、作業内容は一変していた。施設を動かすための仕事ではない。事故の始末をつける作業で、放射性物質から全身を防護する重装備が必要だった。

それから夏に向かって熱中症で倒れる仲間もいた。だが、その場でマスクを外すわけにもいかず、全員で建物内へ運んだ。そうでなくても恒常的に降り注ぐ放射線はつねに危険と隣り合わせだった。

「それがいまは、レッドゾーンをのぞけば、タイベックス(防護服)を着ることもなく、サージカルマスクで済む作業がほとんどなんだものなぁ」

原発の下請作業員として福島第一原発に28年。そのうち3分の1以上は事故処理に、それももっとも危険な時期に従事していたことになる。

事故によって人生が変わり、リタイアしていくのは、原発の作業員ばかりではない。

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