米国が懸念する「プーチン暴走」で次に起こること 経済制裁で「窮地の暴君」はさらに過激に?

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第1弾の制裁に対するプーチンの反応はさまざまな懸念を巻き起こしており、あるアメリカ政府高官はこれを「追い詰められたプーチン問題」と呼んだ。石油大手のエクソンモービルやシェルはロシアの油田開発から撤退。ロシア中央銀行に対する制裁で通貨ルーブルは暴落し、ドイツもそれまでの方針を翻してウクライナ軍に対する殺傷兵器の供与を解禁、ドイツの軍事費を積み増すという驚きの発表を行った。プーチン包囲網は着々と狭まっている。

ただ、ミサイル発射実験の延期を除けば、アメリカが緊張緩和に向けた措置を検討しているという証拠はなく、ある高官は制裁を緩めることに関心はないと語った。

「その正反対だ」。この高官は取材に応じたほかの政府関係者と同じく匿名を条件とした上で、バイデン政権の顧問の間で交わされている内部的な議論について、こう述べた。

実際、大統領のジョー・バイデンは3日、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)を対象に追加制裁を発表。制裁は「すでに大きな打撃を与えている」と語っている。

「デフォルト」相当まであと2段階

バイデンが追加制裁を発表した数時間後、S&Pはロシアの信用格付けを「CCCマイナス」に引き下げた。ウクライナ侵攻数日前のジャンク債レベル(投機的水準)を大幅に下回る格付けで、デフォルト(債務不履行)を意味する等級まであと2ノッチ(段階)しか残されていない。

これは「制裁に耐えられる経済」を目指してきたプーチンの試みが大部分失敗に終わったことを示している。そして少なくとも現時点においては、停戦を宣言するか軍隊を引き上げる以外に、プーチンにとって目に見える出口は存在しないが、プーチンはこうした出口にまったく関心を示していない。

ホワイトハウスの報道官ジェン・サキは3日午後の記者会見で、「今は制裁緩和のオプションを提示するタイミングではない」とし、プーチンに出口を示す試みについては何も知らないと話した。

一方で、国務省のある高官に今後のリスクに関する政権内の議論について尋ねると、政権内のアプローチには微妙な違いが存在しており、プーチンに出口を示す選択肢もないわけではない、というコメントが返ってきた。

バイデン政権の政策はロシアの体制転換を狙ったものではないと、この高官は話した。同高官によると、プーチンの権力ではなく、行動に影響を与えるのが基本方針であり、制裁はプーチンを罰するものとしてではなく、戦争を終わらせる圧力手段と位置づけられている。

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