神奈川県、iPad導入で「関所」が減った! 黒岩祐治知事が語る1600台導入効果

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もうひとつ、起きた変化がある。それまでIT機器が使われていなかった業務に、iPadが浸透しつつある、という点だ。

「神奈川県には909万人の人口がいますが、これはスウェーデンに匹敵するものです。これだけの数となると、県庁にはありとあらゆる種類の業務が発生するんです。その中でどう使うか、実践しながら開拓しています」

「中でも大きいのが災害対策です。以前はたくさんの資料を抱えて担当者が現地から電話で伝える、という感じだったのですが、今はiPadを抱えていって、その場から映像を交えて『現地中継』するようになりました。テレビで働いていた人間からすると、これはもう画期的なことです。機動力が上がり、対応力が非常に高まったと感じます。今後は救急車の中にも搭載しよう、と話し合っているところです。臨場感を伝えられることは大きなメリットです」

国際化に対応できる行政サービス

このほか、県担当者の話では、特に翻訳機能が生かされている、という。といっても、そこで使うのは英語などではなく、もっと小さな国の言語だ。国際化によって色々な国の言葉を話す人々が住むようになったが、その国の言葉がわかる人が必ず役所にいるとは限らない。だが、ちょっとした翻訳・辞書機能があれば、日本語混じりでもコミュニケーションを取ることができて、行政サービスがすすめやすくなる。それに大きなコストをかける必要はなく、アプリを入れるだけで済むため、現場では非常に重宝しているという。

災害対策にしろ翻訳にしろ、その使い方はiPad導入時に決まっていたものではない。日々現場で使いながら見つけていったものだ。黒岩知事は「とにかく使ってみなければどうしようもない」と結論を語る。

「使わずに考えてもしょうがない、と考えて1600台導入してみたわけですが、現場からどんどんアイデアが出てきています。1600台の導入にはもちろんコストがかかるわけですが、ご存じの通り、役所には無駄も多い。CIO(筆者注:2013年より、根本昌彦氏が情報統括責任者に着任し、今回のタブレット導入にも関与している)に精査して、無駄と判断し浮いてきた部分から予算を捻出しました。たとえば、電話契約ひとつにしても、まとめて見直せば、今はかなりの節約ができますからね」

「現在は職員全員に、という形ではないのですが、なるべく早く、本庁職員全員に使わせたいです。次は警察・消防ですね。ここは機動力が活かせます。また、特別支援学級には重点的に配置したいと考えています。ヒアリングの結果、教育効果が絶大と判断されていますので。もちろん、行政がやることですから、セキュリティは十分に確保せねばなりません。そこには最新のセキュリティ技術を採用するのはもちろんですが、できる限り広く、自由に使える形での導入を目指します」

西田 宗千佳 フリージャーナリスト

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にしだ むねちか / Munechika Nishida

得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、『アエラ』『週刊朝日』『週刊現代』『週刊東洋経済』『プレジデント』朝日新聞デジタル、AV WatchASCIIi.jpなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。著書に『ソニーとアップル』(朝日新聞出版)、『漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち』(講談社)、『スマートテレビ スマートフォン、タブレットの次の戦場』(アスキー新書)、『形なきモノを売る時代 タブレット・スマートフォンが変える勝ち組、負け組 』『電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』(すべてエンターブレイン)、『リアルタイムレポート・デジタル教科書のゆくえ』(TAC出版)、『知らないとヤバイ! クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?』(共著、徳間書店)、『災害時 ケータイ&ネット活用BOOK 「つながらない!」とき、どうするか?』(共著、朝日新聞出版)などがある。

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