地球にチリ降り注ぐ小惑星の謎に迫る女性の素顔 産休後すぐに復帰、道半ばでの退職経て…

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そんな荒井さんが一気に研究にのめり込むことになったのは大学で出会った月の石の研究だった。生命体がいる地球と、いない月では何が違うのか。研究では、薄くスライスした隕石の組成を、電子顕微鏡を使って詳しく分析する。地球と月の石の違いに迫る研究にのめり込んだ。

大学院に進み、初めてアポロ計画で持ち帰った月の石に触れたときは胸が高鳴った。その後、NASAのジョンソンスペースセンターに留学し、さらに研究に打ち込んだ。

産後に体調を崩し、下した決断

しかし、荒井さんの研究人生はずっと順風満帆なわけではなかった。

博士課程を経た後、宇宙開発事業団(現JAXA)へ。月探査に関する研究職を希望していたが、畑違いの国際宇宙ステーションの開発プロジェクトに配属された。同じプロジェクトチームには、のちに宇宙飛行士となる山崎直子さんもいた。

荒井さんはNASAと共同してアメリカの宇宙実験棟と実験装置の開発を担当。早朝と深夜はNASAの研究者や技術者と、日中は日本のメーカーの技術者と調整を重ねる日々。でも月の石の研究をしたいという想いは捨てなかった。

毎年、月探査チームへの異動願いを出した。併せて週末の時間を使い、昔の仲間がいる研究室の分析装置を借りて月の石の研究を続けた。いつか月探査部署に異動したときのために準備をしておこうという気持ちだった。

入社して約6年後、ついに月探査衛星『かぐや』のプロジェクトチームへ。その1カ月後に妊娠が発覚した。

「最初は念願の異動も妊娠も叶って、なんて幸運なんだろう!という気持ちでした。しかし、いざ蓋をあけてみるとプロジェクトは佳境に入っていて、育休を取り仕事に穴をあけるのは困難でした」

荒井さんは、現場監督としてクリーンルームに入り、探査機と観測機器を組み合わせて動作確認を行う仕事を担っていた。“育休は取ってほしくない”と言われたため、産休後にすぐ復帰。息子を親に託して働いた。

出産が年度末だったため保育園の確保も難しく、有給を使い保育所を探したが、なかなか見つからなかった。また2週間に1度くらいの頻度で、荒井さん自身が乳腺炎のため高熱を出し、体調を頻繁に崩すようになった。

そんな日々を過ごした荒井さんは、ある決断をする。

「月探査の仕事、月の石の研究、そして育児のすべてをこなすのは体調面からも難しい状況でした。育児は最優先にと考えると、もともとやりたかった研究を続けるためにも、JAXAを退職することを決めました」

念願叶っての月探査の仕事につけたばかり。これからというときに、泣く泣く退職した。

現在のJAXAではもちろん育休もとれる。

「15年以上前の話ですからね。私の場合は極端な例だと思います。出産して育休もしっかりとって復帰している同期もたくさんいますし、今はよい環境になったなと思います」と笑顔で話す。

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