コロナ禍でも「デモ参加は自由」なドイツの発想 積極的に民主主義の議論が行われているワケ

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こうした取り組みは、各自治体でも見られた。例えば、ドイツにはマスクを着用する文化がなかったが、自治体の市街中心地でマスク着用義務化された時期がある。市街中心地というのはドイツにとって重要な空間で、レストランやカフェ、小売店が並ぶ「消費」空間であり、町の発祥地であるため歴史的建築物がある。広場もあり、多くの自治体が歩行者ゾーンにしている。

中心地は居心地がよく、人が長く滞在する場所であるからこそ、マスク着用を義務化することで、安心感や信頼性を高める必然性があったのではないか。

市街中心地の歩行者ゾーンを警察がパトロールする。違反者には罰金も課せられた(写真:筆者撮影)

また、ドイツではネットで予約して、結果は15分で出るスピードテストと陰性証明書が無料でできる仕組みも早くから作られた。スピードテストの費用は政府が負担しているのだが、言いかえれば「信頼性の高い場所」作りに力を貸しているということになる。

感染者数発表にもドイツの発想

感染者数の発表の仕方にも、場所の信頼性を示す発想を読み取れる。例えば、筆者が毎日チェックしている地域新聞で提示されるのは、地域周辺の各町の感染データ。10万人あたりの1週間合計の新規感染者数が都市ごとに示される。

近隣の町に簡単に行き来できる時代、自分が住む町と隣町の違いはあまり意味がないのかもしれない。しかし「1000人の新規感染者が発生した」という実数を出したとしても、人口5000人の町と、100万人の町ではまったく意味が異なる。その点、割合で出すことは、場所としての都市の信頼性を提示できる。個人はそのデータに基づいて自分の行動を決められるわけだ。

現時点で、どの国の、どの方法がコロナ対策として優れているのかの判断はできない。しかし、この2年余りだけを見ても、ある程度、その国の性質や発想を整理できるのではないだろうか。

高松 平藏 ドイツ在住ジャーナリスト

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たかまつ へいぞう / Heizou Takamatsu

ドイツの地方都市エアランゲン市(バイエルン州)在住のジャーナリスト。同市および周辺地域で定点観測的な取材を行い、日独の生活習慣や社会システムの比較をベースに地域社会のビジョンをさぐるような視点で執筆している。著書に『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか―質を高めるメカニズム』(2016年)『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか―小さな街の輝くクオリティ』(2008年ともに学芸出版社)、『エコライフ―ドイツと日本どう違う』(2003年化学同人)がある。また大阪に拠点を置くNPO「recip(レシップ/地域文化に関する情報とプロジェクト)」の運営にも関わっているほか、日本の大学や自治体などで講演活動も行っている。

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