(第38回)反面教師として読む Made in America

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 しかし、実際にはそうではなかった。特に中国という人口大国が工業化したため、アメリカのような巨大な経済であっても、「自らはサービス産業に特化し、製造業は新興国にまかせる」ということが十分可能になったのである。というよりは、そうしなければ、日本と同じように、新興国の低賃金に巻きこまれて、所得が低下してしまっただろう。

ところで、いまの日本は、この報告が作られた当時のアメリカと非常に似た条件下にある。それまでの主要産業であった製造業が世界市場で新興国に圧倒され、生産性が低下して、利益が低下している。

それにもかかわらず、製造業なしでは日本経済は成り立たないと考えている人が多い。つまり、現在の日本で主張されていることは、この報告がアメリカについて述べたこととほとんど同じなのである。それゆえにわれわれは、反面教師として『Made in America』をいま読み直す必要がある。

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財務省 貿易統計

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)


(週刊東洋経済2010年11月6日号号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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