(第38回)反面教師として読む Made in America

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 これに対して、アメリカではベンチャー的企業が乱立しているため、短期的な利益に重点が置かれる。特に問題なのが「サンフランシスコ地区のベンチャーキャピタルである」としているのが、興味深い。80年代初めの規制変更で、ベンチャー資本の投資が容易になった。このため、半導体産業で大規模投資の必要性が生じて企業の安定性が重視されるようになったまさにその時に、大規模で成熟した企業(モトローラ、フェアチャイルド、AT&Tなど)の先進開発グループが会社をやめて新会社を設立したため、生産性が落ちたというのである。

次のような記述もある。「サン社、アップル社、コンパック社などは、ワークステーションやパーソナルコンピューターの人気の波に乗っている。しかし、若い部門のいくつかは、将来弱体化する可能性がある。というのは、そのような部門は、ほとんどアメリカ国内だけで販売される狭い生産ラインに主として依存した、小規模な、ベンチャーキャピタルが後ろ盾の企業で成り立っているからである」(邦訳361ページ)。つまり「アップル社は、ベンチャーキャピタルの支えがなければ潰れてしまうだろう」というわけだ。20年後の現在、アップルは時価総額でアメリカ第2位の企業になった。最近では、伝統的巨大企業であるエクソンモービルを抜いて1位になる可能性もあると言われている。20年間に生じた驚天動地の変化が、ここに象徴的に表れている。

国際分業の視点が欠落している

この報告の基本的な誤りの一つは、国際分業の視点をまったく欠いていることだ。

前回述べたように、報告が製造業を重視する理由は、「アメリカ経済はサービス産業だけでは成立しない」と考えたからだ。確かに、一国だけの閉鎖経済を考えれば、製造業なしで経済が成り立つはずはない。しかし、貿易が可能な世界では、そうではない。経済活動のすべてを自国内で行う必要はなく、他国で生産されたものを輸入すればよいのである。もちろん報告の作成者はそのことを知っていた。しかし、アメリカ経済は規模が大きいので、「貿易だけでは不十分で、自国内に製造業がなくては経済が成り立たない」と考えたのだ。

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