21世紀の国際政治を形作るパワーは何か--ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ

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国際社会が直面している大きなジレンマは、いかにすべての国を参加させ、かつ、効果的な仕組みを作るかだ。それに対する答えは、欧州諸国が“可変的配置”と名付けた考え方の中にある。すなわち、“多国間外交(マルチラテラリズム)”と“小規模な多国間外交(ミニラテラリズム)”を、問題に応じて使い分けるのである。

国連の限界を補うネットワークの力

たとえば、通貨問題を取り扱うためにブレトンウッズ会議で設立されたIMF(国際通貨基金)の加盟国は今日、187カ国に及んでいる。70年代まで、ドルは世界の基軸通貨であり、通貨協力の最も重要な要素であった。そして、71年のニクソンショック後、フランスがランブイエ城に5カ国の首脳を招聘して通貨問題を議論した。このグループは7カ国に増え、議論の対象を広げ、G8へと発展していった。その後、G8は発展途上国から5カ国をゲストとして招くようになり、08年の金融危機の際にさらにメンバーを増やしてG20になった。

それと同時に、G7はより狭い通貨問題を議論するための場として継続している。金融安定化委員会のような新しい組織が設立される一方、アメリカと中国の2国間協議の重要性も増している。ある外交官が「クリントン政権の初期の頃のように20カ国で為替問題やメキシコの救済について交渉するのは容易ではない。10カ国を超えれば、意見をまとめるのに大変で、何もできない」と語っていた。

その意見は正しい。3カ国であれば、三つの2国間関係が存在する。10カ国なら、45の2国間関係が存在する。100カ国ならほぼ5000の2国間関係が存在する。気候変動のような問題で、国連が十分な役割を果たせないのはこのためだ。むしろ、温室効果ガスの80%以上を排出している12カ国で構成される、主要経済国フォーラムのような小グループのほうが交渉を行いやすい。


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