1000億円の経済効果、「多言語対応」元年へ 3大シンクタンクが読む2015年の日本<第1回>

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以上を基に一定の仮定を置いて試算すると、経済効果はタクシーで33億円、鉄道で7億円、バスで45億円、合計で85億円となった。この試算は東京都内を主な対象地域としているが、それ以外の地域においても観光振興のための多言語対応が促進されれば、経済効果はさらに大きくなる可能性がある。

高まる語学熱、経済効果はなんと900億円以上!

次に、個人の多言語対応が進むことに伴う経済効果として、語学学校受講者の増加によって語学学校市場が拡大する効果を試算する。

語学学校受講者数の増加ペースについては、2014年度以降、毎年2.8%と仮定している。前述したように、オリンピック開催決定後に語学学校受講者数が減少トレンドから増加トレンドへ変化したことから、このトレンドの変化幅(年率2.8%ポイント)をオリンピック開催決定による押し上げ効果と考えた。また、1人当たり1カ月受講料は、「特定サービス産業動態統計調査」(経済産業省)における1受講者当たりの売上高を参考に1万7000円と仮定している。

以上の仮定の基で試算した結果、2019年度までの累計の経済効果は、受講者数が13万人の増加、語学学校の売上高が916億円の増加となった。「特定サービス産業実態調査」(経済産業省)における外国語会話教授業務の年間売上高が1234億円、受講者数が78万人(2010年)であることを考えると、ここで試算した今後6年間で現れる経済効果は、業界にとって決して小さくないだろう。

交通機関の多言語対応と語学学校の売上増、これら2つの経済効果を合わせただけで、なんと1001億円の経済効果が期待できる。

東京オリンピックがもたらす大きなレガシー(遺産)

今回は、交通機関の多言語対応が進むこと、語学学校市場の拡大を直接的な経済効果として取り上げた。それ以外にも、商業施設や宿泊施設などで多言語対応が進むと考えられるほか、訪日外国人の利便性向上のためのATMや外貨両替機の設置、翻訳や音声案内機能を有するロボット実用化の推進など、さまざまな場面でビジネスチャンスが生まれてくることが予想される。

また、多言語対応の促進によって、外国人観光客を継続的に呼び込むことや人材の国際化が促進される効果は、日本の将来に向けて大きな遺産となると考えられる。

特に、東京オリンピック開催をきっかけに高まることが期待される語学学習意欲を、若年層を中心とした日本人の英語リテラシー向上につなげることができれば、国際化が進むビジネスの世界で日本企業が競争力を保つうえでの支えとなりうる。

企業の海外展開が進む中で、世界で活躍する「グローバル人材」の必要性は高まっている。そして、ビジネスパーソンの昇進の要件に「外国語が話せること」が求められる企業や、社内公用語が外国語である企業が珍しくない時代が迫っている。多言語対応の促進が日本経済や日本企業の将来にとって重要な意味を持つことは間違いない。

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坂中 弥生 みずほ総合研究所 調査本部 経済調査部 エコノミスト

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さかなか やよい / Yayoi SAKANAKA

慶應義塾大学経済学部卒。みずほフィナンシャルグループ入社後、みずほ信託銀行にて債権流動化業務、みずほ銀行にて法人営業に従事、2013年4月より現職。
 

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