産業天気図(紙・パルプ)リストラ進展で3期連続増益見込み。ただ、原材料費、為替次第ではシナリオ崩れるリスクも残る

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業界団体である日本製紙連合会によれば、2003年の紙・板紙内需(国内出荷+輸入)は、前年比0.5%増と3年ぶりに増加。続く2004年も、連合会は前年比0.7%増の3151.6万トン(紙0.6%増、板紙0.8%増)と2年連続の内需増を予想する。景気の持ち直しに期待する業界関係者の間には、連合会の洋紙見通しは「やや慎重」と評する向きもある。確かに、デジタル家電の好調を受けてカタログやチラシ、マニュアル類が伸びる塗工紙は、今年も底堅い動きが見込まれる。ただ一方で、需要先である出版業界の不況が厳しい非塗工紙や、ポリ袋等と競合する包装用紙の落ち込みは続く。洋紙全体としては、内需の伸び率は緩やかなものにとどまりそうだ。
 2003年は内需の伸びこそプラスに転じたものの、輸入が18.2%増と過去最高となったことで、紙・板紙出荷は0.5%減と戦後初の3年連続減少を記録した。輸入紙は、コピー用紙など一部品種では既に市場に定着しており、その他品種でもシェアは漸増方向にある。こうした輸入紙の攻勢もあり、2002年末に値上げした洋紙価格は2003年の秋口から弱含みの展開となった。内需の本格回復が見込み難いなか、市況は2004年も大手メーカーの減産努力により維持される状況が続く。
 売上高が伸び悩み、市況に不安を抱えつつも、紙・パルプ業界は2004年度で3年連続の増益となる公算だ。増益の牽引役は王子製紙、日本ユニパックの大手2強の合理化による収益改善であり、リストラ余地の小さい2強以外の増益は小幅にとどまる。ただ、パルプや石炭などの原燃料価格には先高感が強く、想定以上の原燃料高と円安が重なれば、業界の増益シナリオが崩れるリスクも残る。しかしながら、その場合にも、大手2強が需給バランスを維持する我慢の経営を続ける限り、秋口には製品価格への転嫁の可能性も生まれてこよう。
 連続大幅増益が期待できるのが、業界トップの王子製紙。RPF(古紙等原料の固形燃料)用ボイラー稼働等で、2004年度に見込まれる工場の合理化効果は約130億円。人件費負担減や関係会社のリストラも含めれば、コスト削減額は優に200億円を上回る。板紙や段ボール事業の収益改善も推し進めて、中期経営計画で掲げた経常利益1000億円に挑む。王子製紙と構造改革を競う日本ユニパックであるが、ここにきて「収益力の改善度合いで王子製紙との格差が開いてきた」(スタンダード・アンド・プアーズの吉村真木子アナリスト)。日本製紙と大昭和製紙が2001年に統合して誕生したユニパックにとって、大昭和の「負の遺産」は依然重い。王子製紙は1996年に本州製紙との合併を逸早く終えており、「合併からのタイムスパンも生かし、王子製紙がより強靭となった格好だ」(吉村氏)。2004年度は人件費圧縮等で巻き返しを図るが、板紙・段ボール事業環境の好転が見込まれる王子製紙との格差を縮めるには、さらに踏み込んだリストラ策が必要となりそうだ。
【水落隆博記者】


(株)東洋経済新報社 電子メディア編集部

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