苦渋の日航パイロット 「整理解雇」で泥沼化

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苦渋の日航パイロット 「整理解雇」で泥沼化

「不適切なやり方と取られていることもあるが、何とか会社が再度破綻しないためにお願いして、希望退職を受けてもらえるようにしたい」。10月26日の定例会見で、日本航空の稲盛和夫会長は苦しい表情でそう訴えた。

「4要件」意識が裏目に?

日航は更生計画案に沿って1500人の希望退職を9月から10月25日まで募集。パイロットと客室乗務員について各130人、140人の未達となり、11月9日まで募集延期した。それでも「目標に達しない場合はある判断をしなければならない」(大西賢社長)と一方的に雇用契約を解除する整理解雇を示唆する。整理解雇は、(1)人員整理の必要性(2)解雇回避の努力義務(3)被解雇者選定の合理性(4)解雇手続きの妥当性--の4要件を満たさないと、司法判断で無効となる。

この4要件クリアを意識した日航の行動がパイロットと摩擦を生んだ。日本航空乗員組合の宇賀地竜哉執行委員長は「空白のスケジュールは違法ではないのか。労働基準監督署に続き、今後はもっと強いところにも訴えたい」と日航の不当性を叫ぶ。空白のスケジュールとは、整理解雇対象のパイロットについて会社側が1カ月間のフライト予定を空白としたうえで希望退職に応募するよう、面談を繰り返すもの。日航からすると、「十分な時間を取って説明するため(要件(4))」(大西社長)であり、パイロットの安全性を重視したやり方でもある。

だが、パイロット側からすれば「退職強要」に映る。また「10月から2カ月も運航ブランクがあると、(復帰訓練が必要になるなど)ライセンスに支障を来す。再就職の妨害にもなる」(宇賀地氏)という。

9月、日航は各労組に整理解雇の人選基準案を提示したが、ここでもパイロットから大きな反発を買った。日航は被解雇者選定の合理性(要件(3))を担保するため、一定以上の病欠日数や年齢という外形標準を基準としたが、パイロットには少々の体調不良でも航空法の規定で乗務できないという事情がある。将来の解雇の危険を避けるためパイロットが不当に病欠を減らそうとすれば、「航空法の根幹を揺るがしかねない」と日本乗員組合連絡会議の幹部は言う。

「人員削減は6月発表だが、再就職支援プログラムが始まったのは10月。会社側は希望退職をスムーズに進め、整理解雇を回避しようと努力をしたのか(要件(2))」「今上期の日航は相当な利益(連結営業利益1096億円)を計上。人員整理は必要なのか(要件(1))」と、労組は4要件不備を主張し始めた。仮に整理解雇実施となれば、労使対立は法廷に持ち込まれ、日航再建に暗い影を落としそうだ。

(野村明弘 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済2010年11月6日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

 

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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