「サハリンパイプライン計画」、年明け始動へ 日本、ロシアともに大きなメリット

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この世紀のプロジェクトは、関係者の思惑通りにスムーズに進むのだろうか。ロシアとの共同事業が本当に成立するのか、疑問に思う読者は多いだろう。

しかし、ロシアのパイプライン事業は長い歴史を持つ。すでに、欧州へのガス供給には40年の歴史があり、その点では供給面での不安は少ないとみていい(「動き始めたサハリンからパイプライン構想を参照)。

外交的には、ロシアとの経済関係を深めすぎると米国が不快感を示すのでは、との懸念もあるだろう。これについて、藤和彦・世界平和研究所主任研究員は「米国では国内需要の観点からシェールガスの日本向け輸出については積極的ではない」と見る。つまり、この面では日本の動きを容認せざるを得ないわけだ。

住友商事や伊藤忠商事など日本勢が、米国におけるシェールガス開発で大きな損失を被ったことは記憶に新しい。エネルギー安全保障上も、資源の種類や供給エリアには多様性を持たせることが望ましいことは言うまでもない。

量の確保、調達先の多様化、価格でメリット

現在、日本のロシアからのガス輸入は、サハリン1、サハリン2からのLNG116億㎥(2013年、以下同)で、年間のLNG輸入総量の10%程度だ。依存度ではオーストラリア、カタール、マレーシアに次ぐ4位。パイプラインが開通すればロシアからの輸入量は200億㎥の上積みとなり、オーストラリアの244億㎥を超えてトップとなるが、需要増を見込めば依存度は20%強で、現在のオーストラリア並みとなる見通しだ。

パイプラインには、量の確保、調達の多様化だけではなく、価格面でのメリットもある。この1年ほどの間、欧州での天然ガス価格は100万BTU(英国熱量単位)当たり9~11ドル、シェール革命が起きたアメリカでは3~5ドル。これに対して日本は17~19ドルと倍以上の額を支払っている。東日本大震災以前は欧州とほぼ同水準だったことを考えると、原発停止による発電用燃料不足で是非ともLNGが欲しい日本は足元を見られていると言っていい。当然、液化プロセスを経ないため、長期的なコスト面でのメリットは大きい。

一方ロシアはというと、ウクライナ問題による欧州のロシア離れによって、買い手を東方に求めている状況だ。5月には中国と天然ガス供給契約を締結した。ただ、中国は天然ガス輸入の赤字が大きく、値付けは渋い。日本との契約が欧州並みの10ドル近辺で落ち着けば、中国に対する牽制球ともなり、ロシアにとってもメリットは大きいはずだ。

「日露天然ガスパイプラインは国際投資に長けた欧州系金融機関からファイナンスの提案も受けている」と前出の藤主任研究員は言う。長期的な需要がある大プロジェクトが、最初の一歩を踏み出すタイミングを見計らっていることは、間違いないようだ。
 

小長 洋子 東洋経済 記者

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こなが ようこ / Yoko Konaga

バイオベンチャー・製薬担当。再生医療、受動喫煙問題にも関心。「バイオベンチャー列伝」シリーズ(週刊東洋経済eビジネス新書No.112、139、171、212)執筆。

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