セミナーレポート

人口6億人の巨大市場を取り込め!
動き出すASEAN経済統合と
日本企業の針路

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《午後の部》
Aトラック ASEAN(M&A、JV、アライアンス、PMI)

基調講演A-1
ASEANのM&A動向
~日本企業にとっての留意点~

GCA サヴィアン
代表取締役
渡辺 章博 氏

独立系M&Aアドバイザリー会社、GCAサヴィアンの渡辺章博氏は、最近の東南アジアでのM&Aは、日本のほか、米国、中国からも大型投資が流入して競争激化の傾向にあり、生産以外に、消費関連セクターの大型案件も目立っていることを指摘。「日本の5倍の人口を抱える東南アジア消費市場を押さえるための投資は、M&Aが重要になる」と語った。

ただし、東南アジアのM&Aでは、各国政府の外資規制のほか、企業の多くを占めるオーナー経営者との交渉の特性に留意する必要がある。また、渡辺氏は、買収した企業の問題点が成立後に判明すると、社内の悲観論が高まり「インターナル・ネガティブ・シナジーが働き始める」として、デューデリジェンスの重要性を訴えた。特に、東南アジアでは、先進国のようにM&Aの実務が確立されていないため、適切な専門家を選ぶことが大事になる。渡辺氏は「ただ安く買うのではなく、適正なコストで、優良な企業を買う方が成功率は高い」と強調した。

同社が関わった2つの事例、INAX(現LIXIL)のアメリカンスタンダード・アジアパシフィック買収、伊藤忠商事とタイ大手財閥のCPグループの業務資本提携を例として挙げた渡辺氏は、ASEAN地域のM&Aでは「ブランド、マネジメントチームを獲得し、広い地域を面で押さえる"ショットガン戦略"と、買収先をパートナーとしてリスペクトすることが大切」と指摘。「山ほどある困難を楽しいと思えなければ、東南アジアのM&Aはやるべきではないというのが私の持論。困難を楽しんで乗り越えることに勝者への道がある」と述べた。

特別講演A-2
太平洋セメントのASEAN事業展開

太平洋セメント
取締役常務執行役員
(海外事業本部長)
菊池 謙 氏

1998年に合併、発足した太平洋セメントの菊池謙氏は、「バブル崩壊後にセメントの国内需要が減少する中、環太平洋地域で確たる地位を維持する」という同社の事業戦略を語った。90年度にピークを迎えた国内のセメント需要は、その後の20年で半分に落ち込んだ。こうした経営環境の変化を受け、国内では、多種多様な廃棄物を原燃料として利用するセメント製造技術を開発し、環境産業として生き残りを図る一方、米国、アジアと、太平洋を取り巻く形で拠点配置を進め、海外事業比率を高めてきた。

ASEAN地域では、95年にベトナム進出を決め、現地のセメント公社と合弁で、ハノイの南200キロのギソン市にギソンセメントを設立、2000年から操業を始めた。ベトナムのセメント需要は順調に増え、10年に完成した2号ラインも含め、ほぼフル操業を続ける。菊池氏は「ベトナムの人々の、日本の行動様式に対する敬意、日本製品への信頼は高く、ギソンセメントのブランドを確立できた」と背景を説明。一方で、ベトナムの人々 の自尊心の高さを指摘して「他国で商売させてもらっているという気持ちが大切」と強調した。

フィリピンには、00年に地元のセメント会社を買収して進出。同国の1人当たりセメント消費量は200キロと、ベトナムの500キロ超と比べて少なく、需要拡大余地は大きいと期待する。

菊池氏は「国内と海外の両輪経営を進めたい。特にASEAN地域は、仕事をしやすい地理的・心理的距離にある。競争激化が予想されるが、物流ネットワークや環境技術などを武器に、特色を出して地域に貢献しながら業容を拡大したい」と述べた。

基調講演A-3
日系企業のASEANにおける課題
(会計・税務の側面から)

KPMG
Global Japanese Practice
ASEAN 地域統括パートナー
藤井 康秀 氏

ASEAN地域の可能性と重要性を訴えた午前の講演に続いて登壇したKPMGの藤井康秀氏は、ASEANでの事業課題について言及した。ASEAN地域に進出している日系企業幹部を対象に、ジェトロが行ったアンケートから、ASEANでの経営課題は、①賃金上昇、②厳しい価格競争、③現地人材の質――の3点に集約されると指摘。

「そろそろ次の戦略を考えるべきポイントに来ているではないか」と、従来の戦略を見直す必要性を示唆するとともに、今後の方向性を次のように解説した。

ASEAN諸国は、低廉で豊富な労働力を使って経済成長を図る政策を進めてきたが、ベトナムやタイでは、生産年齢人口の割合が減って、人口ボーナス期が今年から来年にかけて終わりを迎える。今後、賃金上昇、投資効率の低下が進めば、従来の成長シナリオは、付加価値と生産効率がより高い事業へのシフトを迫られる。一方、消費市場では、中国企業やASEAN国内企業の台頭もあり、日系企業は厳しい価格競争にさらされている。藤井氏は「国内市場に参入するためには、今後は地場企業との連携が重要になる」との見方を示した。

ASEANの人材は、勤勉でルーティン作業に向く反面、変化への対応に弱いなど、質的な課題もある。会計・税務面では、日本人の管理が行き届かないと、税務当局の言いなりで修正申告を単独判断して、高額のペナルティを科されるといった"事故"も発生。また、横領や資産横流しなどの不正も目立つ。藤井氏は「質的に課題のある人材で事業を運営していくためには、内部統制や内部監査などの管理の仕組みが重要」と訴えた。

特別講演A-4
関西ペイントの成長戦略について

関西ペイント
代表取締役社長
石野 博 氏

積極的なグローバル展開を進めている関西ペイントの石野博氏は、「グローバルに見れば、塗料は一大成長産業。市場はグローバルメーカーの寡占化が進んでおり、今、地歩を固めなければ将来の成長はない。これからの10年で世界ナンバー1になるのが目標」と、世界戦略を語った。

関西ペイントは自動車向け塗料に強みを持ち、ASEANでは日系自動車メーカーの生産拡大に合わせ、生産を伸ばしてきた。

しかし、塗料市場の約半分は建築向けが占めることから、2000年代に入り、建築などの汎用塗料分野に注力して、アフリカ最大の塗料メーカーを買収するなどして戦略を推進してきた。自動車に比べて低い所得層から需要が生まれる建築向け塗料を供給し、新興国の下位中間層の需要を取り込む狙いだ。

地域の違いを考慮しながらボリュームをまとめるため、世界を日本、ASEAN、中国、インド、中東、アフリカ、欧米その他の7地域に分割。各地のパートナー企業が地域の実情に応じて、オペレーションを行い、それぞれのベストプラクティスを交換する体制をとっている。

また、建築塗料は、品質、機能による差別化が難しいため、ブランドが確立されていない市場「無人の野」へ進出してブランドを確立するといった、自動車塗料とは別の戦略を展開。ASEANでは、マレーシアに設置したリージョナル・ヘッド・クォーターを設置し、そこから周辺国へ展開する考えで、戦略・オペレーションの現地化を進める。

石野氏は「教育・評価の基準になるグローバル・スタンダードを確立し、現地人材を育てる。『教えてやる』という日本人の意識も改革する必要がある」と述べた。

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