高齢者は若年者の職を本当に奪っているのか?

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 名古屋から特急電車などを乗り継いで1時間30分。古くから湯治場として栄えた榊原温泉(三重県津市)に、旅館「湯元榊原館」がある。

川村賢言(よしゆき)さん(75)は、風呂を管理する「湯守(ゆも)り」として20年以上、同社に勤務する。32度の源泉の湯をボイラーで沸かしたり、水を足したりしながら、夏場は41度、冬場は42度程度に保つ。風呂は「1時間でもほっとくと温度が変わる」(川村さん)ため、ベテランの経験に頼る部分が大きい。

川村さんとともに働くのが20歳前後の若手2人だ。若手は川村さんの仕事ぶりをつねに間近で見ることで、仕事の技能から働き方までも学ぶことができる。

同社は94年に大卒の定期採用を始めたが、旅館業の裏方は労働時間など労働条件の面から定着率が悪かった。「われわれのほうはまず体で仕事を覚えてほしいが、大学生は頭で覚えようとする面もあった」(総務部長の森澤幸一氏)。

そこで始めたのが「ペア就労」である。入社3~4カ月間、OJT中心にみっちりやるが、旅館業の場合、「マニュアルだけでは接客できない。重要なのは経験」(森澤氏)。現在では客室担当などでも、高齢者と若手とのペア就労が行われている。

大卒の定期採用とともに、同社では95年、定年を65歳へ延長した。川村さんは定年後も嘱託社員として働く。「相手が孫みたいなので、かえって話しやすい」(川村さん)。若手との仕事が、自らのやる気にもなっているようだ。

若者就業に詳しいクオリティ・オブ・ライフの原正紀代表は、「企業だけに負担を押し付けると、高齢者と若年層は利益相反する関係になりやすい。社会全体としてどうシステムを作るか、議論を始める必要がある」と指摘する。縮小する労働力を社会全体としてどう活用するか。それは経済成長の行方をも左右する。

(週刊東洋経済2010年10月2日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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