終戦の翌年に餓死…鬼才の木版画を見に行く 不穏で幻想的。谷中安規の魅力

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戦時下で見いだした桃源郷

『童子騎象』もそんな一点だ。

「谷中にとっての桃源郷を表現しています。トマス・モアのユートピアは人間が作り出すものですが、陶淵明の桃源郷は心の中のイメージに近い。谷中の東洋的、仏教的な世界観の表れだと思います。特に1930年代後半から桃源郷的な作品が多くなります。戦時下の閉塞感から、描きたいものが見つからなくなり、心の中の桃源郷のイメージに楽しさを見いだしたのでしょう。作風を変えていかざるをえなかったのだと思います」

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谷中安規『童子騎象』1937年ごろ

戦争が激しくなり、1945年の空襲で焼け出された谷中は、バラックを建てて雨露をしのいだ。しかし、空き地にカボチャを育て、誰かが届けてくれるものを食べる程度で、自分から食料をもらいに行くことはなかったらしい。終戦の翌年、栄養失調により50年の生涯を閉じた。

「世知辛い今の世の中では、谷中のような人は受け入れられないでしょう。彼の作品は、昔は許されていたこと、自分たちが忘れてしまったものを思い出させてくれる。時代批評になっているから、今も新鮮に感じられるのです」

谷中安規の大規模な回顧展は11年ぶり。約300点の作品が制作年順に並び、谷中の人と作品を知ることができる。

「鬼才の画人 谷中安規展 1930年代の夢と現実」
10月4日~11月24日
町田市立国際版画美術館
町田市原町田4-28-1
TEL042-724-5656(町田市イベントダイヤル)
10:00~17:00(土・日・祝は17:30まで、入場は閉場の30分前まで)
月曜休館(11月24日は開館)
一般800円、大学生・高校生・65歳以上400円、中学生以下無料
2015年4月11日~5月17日に岩手県立美術館に巡回予定。
仲宇佐 ゆり フリーライター

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なかうさ ゆり / Yuri Nakausa

週刊誌のカルチャーページの編集・執筆を経て、美術展、ラジオ、本などについて取材、執筆。全国の美術館と温泉をめぐり歩いている。

 

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