産業天気図(化学) 内需堅調、アジア向けも好調で収益上向き、だが原料ナフサ価格高止まりが懸念材料

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需要堅調を背景に化学業界の業績が上向いている。石油化学製品の基礎原料であるエチレンの8月生産量は60万9700トンと前月比8%増、プラント稼働率も前月から0.9ポイント上昇の98.4%と高水準を維持している。イラク戦争、新型肺炎SARSの影響も軽微に止まったことに加え、米国景気も好調に推移していることが効いている。
 今年初はイラク戦争の影響で原料ナフサ価格が上昇、採算改善をはかるため石化各社は4月からの主要樹脂製品値上げを打ち出し、製品による差は若干あるがほぼ浸透した。しかし、この値上げを前にした駆け込み需要の反動で、今第1四半期(4−6月)の主要樹脂の国内出荷は低調に推移した。海外も今年度の出足はアジアでのSARSの影響で一時的に合繊原料や樹脂原料の需要が落ち込み、市況も低下した。
 第2四半期に入って、SARSの影響が比較的短期間で終わったことで、需要回復、市況も改善しアジア市場は好調に推移している。一方、内需も駆け込み需要の影響も薄れ、7月にはポリスチレンやポリプロピレンは前月同月比でプラスに転じている。加えて需給面ではポリスチレンで4月に旭化成と三菱化学の事業再編会社に出光石油化学が合流してPSジャパンが発足、塩ビ樹脂でも呉羽化学の大洋塩ビへの営業譲渡をはじめとした業界再編が進行したことも効いている。
 ただ、今後の懸念材料は原料価格の高止まりだ。イラク戦争後、一時低下したナフサ価格が反転、高止まりしている。自動車向け中心に内需は底堅いとはいえ、今春に続く一段の製品値上げ実現するのは難しく、このまま推移すると再び採算の悪化は避けられない。塩ビ樹脂などは10月からの製品値上げを打ち出しているが、今後の原料価格の推移と製品値上げの動向に注目したい。
 この原料ナフサ高の影響で9月末に業績の下方修正を発表したのが住友化学だ。今期営業利益は期初想定の760億円(前期比3%増)から80億円減額の680億円(同8%減)となる見込みだ。三菱化学や三井化学、旭化成なども原料ナフサ高の影響が懸念されるが、中間原料市況の上昇である程度吸収できるのではないかと思われる。
 このほか化学各社の業績を下支えしているのは電子材料で、特に表示体材料は各社とも順調だ。住友化学は情報電子部門だけでみると偏光フィルムやカラーフィルターなど液晶表示材料の販売が順調で収益は計画を超過している。三井化学でもPDP向けフィルタなどが順調、旭化成もLSIなどの好調が続いている。信越化学は半導体シリコンウエハが8インチ以下の従来品が過去のピーク水準に近いレベルで推移し、300ミリも順調に需要を伸ばしている。今後もこうした傾向が続く見込みで、生産増強を決める会社も多い。 住友化学と三井化学の事業統合見送りで遅れが懸念されている業界再編の動きだが、会社全体としての事業統合は難しいとはいえ、製品や事業単位での事業統合は引き続き進むものと思われ、この点にも注目しておきたいところだ。
【田原哲雄記者】

(株)東洋経済新報社 電子メディア編集部

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