アパッチ攻撃ヘリの調達、なぜ頓挫? 問われる陸自の当事者能力

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89機生産された「AH-1S」

英国の調達と比較してみると、防衛省の調達手法のお粗末さが理解できるだろう。陸自はAH-1S後継としてAH-64Dを選択している。しかし、そもそも、前機種のAH-1Sの選択からして、大きな問題があった。

AH-1Sは、富士重工が1982年からライセンス生産し、2000年まで18年かけて89機が生産された。初期の2機は1977~78年に1機ずつ輸入されており、調達に約四半世紀を費やしたことになる。調達期間は極めて長い。長すぎるといってよい。

だが米陸軍は1984年、日本がAH-1Sの生産を開始するわずか2年前から、AH-1シリーズの後継機であるAH-64A(アパッチ)の調達を開始し、1997年にはAH-1シリーズの調達を終えている。米国が最新型のAH-64Aを調達している横で、旧式となった攻撃ヘリAH-1Sを延々と生産してきたことになる。

日本におけるAH-1S の平均調達価格は約25億円で米国の約3倍、特に末期に調達数が減り、単価は48億円にまで高騰した。旧式の軽自動車に最新式のベンツの値段を払ってきたようなものである。

なぜ調達費用が高騰するのか

AH-1Sのライセンス生産に先だち、防衛省(当時は防衛庁)の担当官が以下のような説明を国会でしていたら、どうなっていただろうか。

「アメリカでは2年後にAH-1の後継である新型アパッチの生産を開始します。しかも1997年までにはアパッチの生産も終わります。ですが防衛庁では既に旧式化したAH-1Sを今後20年ほどの年月をかけて調達します。米国での調達価格は8億円ぐらいですが、わが国では最大48億円ほどになります」

いったい、賛成する議員がどのくらいいただろうか。

陸自は2005年になってAH-1S約80機の後継としてAH-64D(アパッチ・ロングボウ)を62機導入することを決定した。むろん、これは慣例通り、国会で承認されてはいない。日本では多くの場合、議会も納税者も何のために何機がいつまでに、総額いくらの予算がかかるかも知らされず、初年度の調達がなし崩し的に始まるのが慣例だ。これが装備の高騰化の一因となっている。先に上げた陸自のAH-64Dの調達数である62機も、単に陸自内部の目論見であり、国会で承認された計画ではない。

装備調達は企業でいえば設備投資に当たる。調達規模、期間、総予算を決めないで巨額の設備投資を行う企業はないだろう。防衛省は設備投資計画を持たずに、「設備投資」を行っているのだ。

AH-64Dの選定過程にも問題があった。AH-1Sの後継機に関しては、事実上初めから「米陸軍と同じ」アパッチの導入が決まっており、他の候補が真剣に検討されることはなった。ライセンス生産はAH-1S同様、富士重工が担当することとなった。

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