オスプレイ選定の不透明、対抗馬は商用機? 防衛省は「複数候補から選んでいる」と強弁

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ティルト・ローター機の調達機数にも大きな疑問がある。筆者は来年度概算要求のレクチャーで担当者に質問したが、中期防で調達する機数以外は決まっておらず、調達が始まってから総調達数を決定すると回答している。

これは事実上、「運用構想が存在しない、予算規模も考えていない」と主張しているに等しい。1000億円を超えるような大規模な投資において、その詳細がほとんど問われることなく国会が承認してしまう民主国家は、日本くらいではないか。

そもそもティルト・ローター機が本当に必要不可欠なのか。オスプレイの利点とは、固定翼モードではヘリより遥かに高速で飛行でき、航続距離も長いことである。ヘリモードを使用すればヘリコプターのように垂直に離着陸できるというメリットがある。おおむね従来のヘリコプターと比べて2倍のスピード、3倍のペイロード、3〜5倍の航続範囲を飛行が可能である。ペイロードは24名の兵員、または貨物内部搭載が最大9トンである。兵士24名搭乗時の航続距離は600海里だ。

これだけみると夢の軍用機のようだが、欠点もある。オスプレイが着陸する場合には固定翼モードからヘリモードに切り替えるが、ヘリと較べてかなり長い時間(約3倍)を掛けて徐々に高度を落としていく必要がある。また、その際には空中機動性能がヘリよりも劣り、ヘリのような急旋回やダイブなどといった機動ができない。つまり、敵の支配地域あるいは敵味方が競合しているエリアでのヘリボーン作戦でオスプレイを使用すれば、敵の対空砲火によって撃墜される可能性は極めて高くなる。

なぜオスプレイ購入を急ぐのか

オスプレイの導入を急ぐ理由について、南西諸島防衛のため、との説明がなされている。本当にそれが目的なのであれば別にオスプレイ以外にも多くの候補がある。既存の陸自の大型輸送ヘリCH-47、中型汎用ヘリUH-60などに空中給油装置を装備し、併せて空自のC-130H戦術輸送機を空中給油機に改造すれば本土から南西諸島への直接飛行も可能だ。既に空自は数が少ないがC-130Hに空中給油機機能を付加している。空自の全C-130H、16機にこの改造を行えばかなりの規模のヘリ部隊に空中給油が可能となる。特にC-47は大型であり、車輛などのオスプレイでは輸送が不可能な大型装備、例えば軽装甲機動車などを輸送することができる。

また、海自のDDHなどでの運用を考え、ローターブレードが折りたため、狭い艦内のハンガーでの整備が容易であることを求めるならば海自が掃海・輸送に使用しているMCH-101の輸送型、あるいは米海兵隊、ドイツ軍が導入予定のCH-53の最新型、CH-53Kでもよい。これらはオスプレイよりも搭載量が大きい。また欧州で広く使用されている最新型の中型汎用ヘリ、NH90は概ねオスプレイと同じペイロードだが、調達コストは概ね4分の1から3分の1程度である。

一刻も早く部隊を展開する必要があるのであればC-130Hや、開発が難航しているが新たに導入される予定のC-2輸送機で落下傘降下をさせれば良い。当然ヘリのような柔軟性がないが、進出速度は格段に速い。南西諸島防衛という重要問題に対処するためには、このくらいの議論は公でなされても然るべきだが、防衛省が情報を出さないために議論が起きない。

オスプレイの調達と運用は極めて高額である。陸幕はオスプレイの調達課単価を120億円と見ていたが、昨今の円安を反映すれば160億円ぐらいに跳ね上がるだろう。本中期防は来年度以降4年間が残っているが、この金額で17機を調達すると2720億円、1年度あたり680億円になる。陸自のヘリ調達予算は年間で概ね250億~350億円だから、その2倍以上になる。かと言って、陸自は他のヘリも必要であり、すべてをオスプレイにつぎ込むことは不可能だ。またオスプレイは通常のヘリよりも構造が複雑であり、整備維持費用がかなり高い。数倍という話もきく。

オスプレイの導入は陸自の予算を圧迫し、むしろ陸自の戦闘力を大きく削ぐことになりかねない。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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