ニッポンの新幹線はインドに売り込めるのか 性能面のアピールだけでは不十分だ

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日本の技術を取り入れて2007年に開業した台湾新幹線の場合、台北―左営間(345㌔㍍)の普通運賃は1630台湾ドル(約5750円)。東海道新幹線の東京―名古屋間(366㌔㍍)の運賃・特急料金1万1090円のおよそ半額程度だ。日本と台湾では物価や競合交通機関の存在など諸条件が異なるため単純な比較はできないが、ビジネス客から家族連れまで幅広い層に広がっており、利用者数は毎年順調に拡大している。その一方で台湾新幹線の運営会社は、今も巨額の累積赤字に苦しんでおり、その解消は容易でない。

インドのシン議員が懸念しているのも開業後の資金回収計画だ。貧富の差が激しいインドでは料金設定次第で利用者数が大きく変わる。インド政府ではムンバイ―アーメダバード間を含む650㌔㍍の事業費をおよそ9000億円と見積もるが、営業キロが345㌔㍍の台湾新幹線でさえ総事業費が約1兆7000億円に達したことを考えると、調査の結果、インドの事業費が9000億円を上回る可能性は小さくない。

円借款で日本が一歩リード

日本には新興国向けの融資制度として、低利の円借款制度がある。フランスやドイツにも同様の支援制度があるが、「高速鉄道のような巨大事業に融資できるほどの規模はなく、世界銀行の融資などに頼らざるをえない」(日本の政府系機関の幹部)。この点では、日本が一歩リードしている。

だが、新幹線と円借款の組み合わせで受注を獲得できるという簡単な話ではない。円借款のうち、より低い金利が適用される「STEP」制度を利用する場合は、一定割合の日本製品が事業に採用されなくはならないという縛りがある。つまり各国が受注獲得を目指す国際競争入札が行われる場合、円借款が使えなくなる可能性があるのだ。

インドのシン議員は「高速鉄道のファイナンスを行う組織があってもいい。たとえば新たにインフラ建設を支援する開発銀行がアジアに作られる動きがある」と言う。

その念頭にあるのは、中国が主導して設立する国際金融機関「アジアインフラ投資銀行」である。10月24日に設立が決定された。タイミング的には、インド高速鉄道への融資をにらんだ動きと考えて間違いないだろう。

中国の動きはほかにもある。9月には中国がインドに鉄道業界向けの人材を養成する「鉄道大学」を設立することを約束したと伝えられている。日本でも東京大学が今年からインド鉄道省の若手を学生として受け入れるがその人数は少ない。中国は資金面や人材育成面でもインドに攻勢をかけてきている。

日本勢が本気でインドの高速鉄道を獲りにいくなら、新幹線の性能面以外でも強くアピールしていく必要がある。

(撮影=尾形 文繁)

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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