(第46回)未病薬を健康生活に活かす(その4)

山崎光夫

 ここ何回かこの欄で、本格的な病気にならないための手段として漢方薬を使う方法を探っている。
 この、「漢方」と一口に言っているカンポウだが、古代中国で発生し、日本に伝来した医術ではある。しかし、その医学の本質は、日本人の独創力と工夫力で、特に江戸時代にかなりの部分が日本式に変化し、発展している。「漢方」とひとくくりするには無理があり、また適切ではない。

 そこで専門家は、「和漢薬診療」や「皇漢医学」.「和漢方」といったりもする。
 わたしは独特の発展に寄与した江戸時代の医師たちに敬意を表して、「江戸医学」と表現してもいる。江戸医学には現代人が学ぶべき多くの知恵が隠されている。

 便秘といえば、多くの女性や機能の低下した高齢者を悩ませている病気である。百害あって一利なし、が便秘。一刻も早く排出するに越したことはない。
 とはいえ、生活が乱れたり、時間に追われたりで、ついつい排便の機を逃して常習的な便秘に陥るケースは現代人にありがち。
 ここで、ただ症状を取るだけではなく、本来の排泄機能を補い、強化する作用のある漢方薬が活用できる。

 標準的な処方に、麻子仁丸(ましにんがん)がある。6味から成り、使用される麻子仁は、クワ科のアサの種子。この油性成分には、便を緩ませる緩下(かんげ)効果があり、おだやかな便通が期待できる。

 また、潤腸湯(じゅんちょうとう)は、乾燥傾向でコロコロした兎の糞のような便が出るタイプの便秘に恰好。「腸を潤す」という効果から、潤腸湯の名前がついた。11種の生薬から構成されていて、使用されている地黄(じおう。ゴマノハグサ科ジオウの根)は、消化管運動を刺激して、便を軟化させる作用や滋養効果がある。

 さらに、大建中湯(だいけんちゅうとう)は、乾姜(かんきょう。ショウガ科ショウガの根茎の乾燥品)、人参(にんじん。ウコギ科オタネニンジンの根)、山椒(さんしょう。ミカン科サンショウの果皮)の3つの生薬から構成されている。いずれも体を温める作用があり、食材由来の植物を使用しているので副作用も少ない。
 大建中湯は、「大きく中(体の正面の中央、つまり腹部)を建て直す」の意味がある。消化機能を強化する。
 案外知られていないが、この大建中湯は漢方薬の中で現在最も健康保険で処方されている薬である。外科手術後の腸管通過障害と体力向上には欠かせない処方となっている。内服薬ながら、外科医の強い味方である。

 自分に合った未病薬を探し出して、本格的な病気にならない方策を講じることが健康生活、元気長寿のための地味ながら早道のような気がしてならない。

 男女の関係で、「恋愛以上、結婚未満」の言葉がある。熱い二人には結婚未満は不満だろう。だが、事、病気に限っては「未満」(未病)のほうがよい。

 このたびの未病薬シリーズにおいて、漢方薬の基本的な知識と応用で、千葉・あきば伝統医学クリニックの秋葉哲生院長の指導を仰いだ。記して感謝致します。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
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