「自己実現を目指そう!」と言う上司がヤバい理由 多くの人が誤解する「マズローの欲求理論」

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人は、支配され決定権を奪われること、誤魔化されること、搾取されること、言いなりになることは避けたいと考えている。しかしヤマダ部長のような権威主義のマネジャーは、これらを公然とやっている。これでは、やる気ゼロの指示待ち社員が大量生産されるだけだ。やる気ゼロ社員を生んでいるのは、そのマネジャー本人なのである。

本来人間は、「自分で自律的に決定したい」と考えている。必要な責任を負って主導権を握り、自分で計画を立て、行動を決め、実行して成功し、正当に評価されたいと考える。

そんな環境をつくらずに「やる気がない社員ばかり……」と嘆くマネジャーは、本来マネジャーがやるべきことを何もしていない。まずは権威主義的な仕事のやり方を改めることだ。

そこで参考になるのが、20世紀後半の心理学をつくり直した心理学者マズローが古典的名著『完全なる経営」(日本経済新聞出版社)で提唱した「自己実現」という概念である。

この自己実現という言葉は、最近いろいろなところで見かけるようになった。しかし誤解しているケースも実に多い。

自己実現は「やりたいことをやっていること」ではない

かつてある会社役員が、部門会議でこう言った。

「みんな仕事で、自己実現を目指して頑張ろうよ!」

これは自己実現を根本的に誤解した、典型的なイタい例である。

多くの人が「自己実現って、要は自分がやりたいことをやっていることでしょ」と誤解している。しかし自己実現は、簡単にひと言で表現できないのが悩ましい。

マズローは本書で自己実現をあの手この手で説明している。強いて言うと、自己実現とは「自分ができる最大限のことをすることで、自分自身らしくなっている状態」のことだ。

マズローは黒澤明監督の映画『生きる』を紹介している。主人公は無気力な日々を過ごす市役所の課長。ある日ガンで余命短いことを知り、社会に役立つ生き方を見つける。反対する上司を説得し、ヤクザの脅しにも負けず、市民の要望だった公園を完成させる。雪が降る晩、完成した公園のブランコに揺られて息を引き取る、という物語だ。

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