「現代の闇」を予言したマルクスとケインズの慧眼 GAFA支配は「アヘン貿易の世界化」に他ならない

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木村:ええ、セーフティーネットというか、福祉国家論のはしりみたいなことを言っていますよね。

水野:そのときにロックは性善説なのでしょう、目の前に倒れている人がいても見て見ぬふりをするのは罪であると、はっきり言っています。けれども罰にはしないよと。だから結局、罰にならなければみな通り過ぎてしまいますね。それを福祉国家が引き受けて、困っている人がいたら社会保障で対応しましょうというのが20世紀の福祉国家で、ロックの理念の多くの部分を引き受けているのだと思います。

そうすると、新自由主義の人たちが主張している「小さな政府」はおかしい。超富裕層の人たちが困窮者を助けるから「小さな政府」にすべきと言うのであれば、筋が通っていると思いますが、10兆ドルものお金を持て余して、使い途がないから宇宙旅行にでも行ってこようというのはどうかと思いますね。

ケインズの慧眼――行き過ぎた貨幣愛は悪

木村:マックス・ウェーバーが言うところの「精神なき専門人」「心情なき享楽人」でしょうか。そういう人たちは、ケインズやプルードンや荘子からすると、もう唾棄すべき人たちということになりますね。

水野:改めてケインズの慧眼だと思うのは、ロックの性善説はダメだと。それからマルクスの財産を国有化しろというのも行き過ぎてダメだと。その真ん中を行って、ビリオネアは社会から隔離しようと。行き過ぎた貨幣愛は悪だと言っていることですね。

私は、日本が最初に2030年に財産禁止令を出すべきだと思っています(笑)。一生涯使い切れないような、たとえば1000億円以上の資産を持っている超富裕層には、生きているうちに取り上げるとレーニンのつくったソビエトみたいになってしまいますから、相続のときに一定額を超えた分は国に戻す、という制度をつくるべきだと思います。それぐらい誰も文句は言わないと。

木村:へえ、おもしろいなあ。文句は言わないと願いたいですね。それこそアダム・スミスが『道徳情操論』で言っていたような倫理道徳と経済の問題、つまりは、内なる道徳、シンパシーによって「人と人」がつながるフェアプレーの精神の重要さですね。

それから、ウェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で提起した問題を、超富裕層や企業のトップの人たちはもっと真剣に考えなくてはいけない。「吾唯足るを知る」ですよ。

アダム・スミスは、みなが得意技を発揮して、分業することによってお互いが人間として高め合うと説いています。しかし、現実には、列強各国がスミスのような意見に耳を貸すことはなく、英国は帝国主義政策のもとに世界の7つの海に植民地を拡げ、富を収奪していった。そのあげくが悪名高いアヘン貿易ね。

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