「政権浮揚力」を生む唯一の方法

「政権浮揚力」を生む唯一の方法

塩田潮

 菅首相が10月2日、国会で所信表明演説を行った。

 首相の不安材料は、指導力、ねじれ下の政権運営力、未知数の外交・内政の手腕だけではない。参院選や代表選で露呈したぶれと無定見が最大の問題だ。「菅政治」の達成目標や青写真はもちろん、方向性も見えない。

 首相が参院選後に国家戦略局の機能縮小論を打ち出した。その際に「これでは予算編成のやり方が自民党内閣と同じ」と抗議した前官房副長官の松井孝治氏は、9月下旬「見えない菅政治」について「これからだと思う。菅首相はどういう国にしたいのか、臨時国会の所信表明演説などで明確にビジョンを示してもらいたい。そこはまだ示し切れていない」と語っていた。演説を聞いた限り、「見えない菅政治」の懸念は払拭されたとはいえない。

 演説では「『有言実行内閣』の出発」「先送りしてきた重要政策課題の実行」を説き、法人課税見直し案の年内策定、事業仕分けの特別会計への拡大、「ひもつき補助金」の一括交付金化着手の年内の検討、企業・団体献金禁止と国会議員定数削減の年内の方針取りまとめなど、期限付きの具体策もいくつか用意した。

 意欲は買えるが、論点の羅列という印象で、明確なビジョンの提示にはほど遠い。それ以上に、国家戦略局構想のあり方など、「有言実行」を推進するシステムと装置について言及がないのが気にかかる。

 首相は党内融和を意識して「412人内閣」と述べ、全国会議員による「全員野球」を唱える。所信演説にも「政府・与党で全体像を検討」「党内で徹底的に議論」といった表現が登場するが、自民党政権時代の「与党主導」「党高政低」の復活を許す危険性がある。参院選、代表選という「立ち上がりの大試練」を切り抜けた菅首相は、いまこそ明確に「菅政治」のビジョンと方向性を明確にするときだ。

 推進に必要な首相主導の装置とシステムを構築し、政権延命の邪念を振り払って「菅政治」の実現に邁進すれば、それがリーダーシップとパワーの源となる。この発想に立たなければ、政権に浮揚力は生まれない。
(写真:梅谷秀司)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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