水ビジネスの幻想と現実[3]--キーパーソンに聞く/三井物産、丸紅、産業革新機構

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■産業革新機構
 投資事業グループマネージングディレクター 豊田哲朗氏

--三菱商事を中心とした豪州・水事業会社(UUA)の買収に産業革新機構が参画する意図とは。

世界を見た場合、水のインフラは非常に有望な成長市場であり、そこに日本がどう絡んでいくかは産業界にとって重要なテーマ。今回のUUA買収をきっかけに、海外の水インフラ分野で日本企業の活躍する場が明らかに広がるわけで、次世代の国富を担う産業の育成という産業革新機構の役割に合致する。今回は海外への投資となるが、豪州が舞台なのでカントリーリスクも少ないと判断した。

別の表現をするなら、明確なストーリーが描けるということ。今回参加する民間企業は1社単独ではなく、三菱商事、日揮の連合。直接の出資はしないが、三菱商事と日揮が今春に資本参画した荏原エンジニアリングも実務面では関与する。また、産業革新機構は東京都水道局と相互協力協定を結んでおり、買収後には都に技術指導を仰ぐ予定だ。つまり、産業革新機構が触媒となり、日本の技術、ノウハウが1つの塊となって海外に出て行くというストーリーが描ける。

--水のインフラビジネスは現地完結の土着型商売なので、国内の産業や雇用への波及効果は乏しい。産業革新機構が出資する対象としては疑問を感じるが。

買収したからといって、設備をすべて日本のモノにかえたり、現場の社員を全員日本人にするわけにはいかない。そういう意味では、国内経済や雇用への波及は確かに限定的かもしれない。ただし、日本の優れた技術・ノウハウを備えた設備、人材を活用する機会が増えたり、インフラのビジネスが連鎖していく絵は描けるかもしれない。インフラは相手の社会基盤を担うもので、信頼が大事。いったんその国で信頼を勝ち取ったら、次の話にも進みやすい。電力や交通も日本企業に、という展開だってありうるだろう。

--豪州2位の水事業会社とはいっても、UUAは売上高60億円、最終利益は数億円程度。190億円の買収金額は高すぎるのでは。

きちんとリターンが期待できると判断したからこそ投資を決めた。UUAは、自治体を始めとする顧客との長期契約に基づいて、上下水道や産業排水などの施設運営を手がけている。ストック型のビジネスであり、経済変動などによる業績の下振れリスクは低い。また、オペレーションの改善や、さらなる事業規模の拡大により、将来的な企業価値の向上も期待できると考えている。

--今後も水ビジネスに機構が出資する可能性は。

可能性としてはある。UUA以外にも複数の案件が持ちこまれているが、政府が関与する投資会社である以上、今回に似たストーリーが描けることを条件の一つとして、投資判断を行っていく。

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