《プロに聞く!人事労務Q&A》転勤を拒否する社員を懲戒処分できますか?

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判例では、転勤命令が権利の濫用となる場合として、(1)業務の必要性がない場合、(2)業務上の必要性が存在する場合であっても、その転勤命令が不当な動機・目的(たとえば、いやがらせ人事、報復人事、組合活動に対する不利益取り扱い、男女差別等)をもってなされたものである場合、(3)従業員に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなどとしています。

特に問題となるのが、(3)「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」という点です。具体的には、「家庭生活上の著しい不利益の程度」ということになりますが、たとえば、病弱や障害、要介護状態にある家族を抱えているときなど、その従業員の転勤によって一家の生活が破綻するおそれがあるような特別な事情がある場合などは、転勤拒否が正当とされることもあります。こうした場合、転勤命令が権利の濫用とならないためには、労働者の被る不利益の程度をできるだけ軽減する措置を講じることが労働契約上の配慮義務とし必要となります。

しかし、ご相談の内容からすると、幼児を抱えているとか、また妻が病弱であるわけでもなく共働きであるという理由のみのようです。とすれば、単身赴任も可能であり、転勤を拒否する正当な理由として「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」は存在せず、転勤命令は有効なものと考えられます。その社員があくまでこれを拒否する場合には、今後の人事異動への拒否も許す結果となることを考えると、解雇もやむをえないと言えます。

ただし、懲戒解雇は会社員としての極刑に値するため慎重を期すべきであり、転勤に伴う住居の確保や転勤手当の有無やその額、さらにはより近い場所への転勤先の変更等事前に負担軽減策を整理して提示するなどにより協議を重ねてことも必要でしょう。

石澤清貴(いしざわ・きよたか)
東京都社会保険労務士会所属。法政大学法学部法律学科卒。日本法令(人事・労務系法律出版社)を経て石澤経営労務管理事務所を開設。
商工会議所年金教育センター専門委員。東京都福祉サービス第三者評価者。特に労務問題、社内諸規定の整備、人事・賃金制度の構築等に特化して業務を行う。労務問題に関するトラブル解決セミナーなどでの講演や執筆多数。


(東洋経済HRオンライン編集部)

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