被災鉄道、なぜ山口県は早期復旧できたのか ローカル線は不通が長期化すると苦しい

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災害規模の違いによる復旧費用の多寡もあるので、運転再開への道筋がなかなかつかない路線、地域を一概には批判できない。

だが、もともと利用客が少なく、設備投資の回収がほぼ不可能なローカル線では、問題解決が遅れれば遅れるほど運転再開は難しくなる。「鉄道は地域に必要な交通機関だ」と自治体などが主張しても、列車代行バスの運転によって「バスで充分、需要に対応可能」という"実績"が日々積み上げられる。時には数十億円以上にものぼる復旧費用を、「誰であれ負担する必要なし」という意見が勢いづく、皮肉な一面もある。

黒字の会社は、補助金の支給対象とならず

JR各社などの民間企業が被った災害からの復旧費用は、公共性が高い事業であっても、自社で全額負担するのが原則。国道・県道・市町村道などが100%公共負担で修復されるのとは対照的だ。鉄道の場合は一応、救済措置があり、鉄道軌道整備法に基づいて復旧費用の4分の1が国庫から、別途4分の1が地方自治体から鉄道事業者に対して補助されることになっている。

ただ、補助金の支給要件として「収益が厳しい事業者に限る」「復旧費用が運営収入の1割以上であること」「被災路線の収入では復旧費用の回収が困難であること」といった条件がつく。要するに黒字の会社は補助金の支給対象とならないのだ。

この点、大都市圏や新幹線からの収入を基に黒字経営が続くJR本州三社(東日本・東海・西日本)が持つローカル線が被災してしまうと苦しい。赤字経営だった三陸鉄道が東日本大震災から早く復旧したのに対し、JR東日本の各路線がなかなか復旧できないでいるのも、これが主な原因の一つだ。もちろん、補助を受けられたとしても、残り2分の1は自己負担である。

もう一度、表を見ていただくと、山口県内を走るローカル線3線が不運にも立て続けに水害で被災し、そしていずれも約1年ほどで復旧したこともわかる。

山口線には特急列車やSL列車が走り、観光・ビジネスに利用されているが、美祢線と山陰本線の被災区間には数が限られた普通列車しか設定されておらず、お年寄りと高校生が利用客の中心となる、地域内の交通路線の域を出ない。JR西日本としては、復旧費用を拠出したところで回収できる見通しに乏しい区間であることには間違いない。

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