環境激変に耐え切れず 「明治」大型再編の成算

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環境激変に耐え切れず 「明治」大型再編の成算

「100年間続いた明治製菓、乳業の名前が消えるのは非常に寂しいが、感傷に浸っている場合ではない」。9月13日に子会社の再編を発表した明治ホールディングスの佐藤尚忠社長は会見の席でこう淡々と語った。

2008年9月に明治乳業と明治製菓が経営統合を発表してから2年。今度は、来年4月をメドに乳業事業と製菓の菓子事業を一体化した食品会社「明治」のほか、製菓の医薬品事業を中心に薬品会社を設立する再編計画を発表した。統合時から事業別の再編を計画してきたが、食品企業にとって社名変更は大きな決断。それぞれの分野でトップである両社を一体化させるのは荒技とも言える。

ここまで思い切る背景にあるのは統合後の事業環境の激変だ。リーマンショックの勃発で消費減退と低価格競争に見舞われたうえ、カカオ豆など原材料価格高騰も続いている。特に菓子事業は影響をまともに受け、今や広告費や拡売費を削り続けているような状態。乳業も強みを持つヨーグルトの値下げ合戦で疲弊感が漂っている。

統合後、商品開発を中心に連携を進めてきたが、環境変化には追いつけず。2010年3月期の営業利益は統合発表前の08年3月期の乳業・製菓の単純合算を下回った。統合時見込んでいた来期の収益計画も未達濃厚となっている。こうした中、「今の体制ではダイナミックさに欠け、シナジーを出すにしてもスピードが遅い」(佐藤社長)と判断。今後は研究開発を共同で行うなど、一歩進んだ連携を模索する一方で、M&Aも積極的に展開する構えだ。

だが、乳業と製菓では生産や物流などにおいて重複が少なく、事業構造の違いから一体化の効果は限定的との見方も少なくない。このため、統合に踏み切る企業はまれで、ライバルの森永は乳業と製菓で一切の連携がない。

明治は一歩先んじているとも言えるが、再編内容には中途半端さも残る。期待される将来の“果実”は、新たな需要開拓による売り上げ拡大が主になるが、具体的な事例はまだ見えてこない。また、物流や工場の合理化も難しく、大型再編といってもリストラなどの痛みを伴う作業はない。少子高齢化などで市場縮小が続く中、本格的な成果を出すにはより抜本的な改革が不可避だろう。

■明治ホールディングスの業績予想、会社概要はこちら

(倉沢美左 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済2010年10月2日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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