デロイトトーマツ

アジア展開で成功する企業と
失敗する企業は何が違うのか

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リスク対応やガバナンス構築には
従業員の意識改革がカギに

海外展開の際に忘れてはならないのは、リスク対応やガバナンスの問題だ。贈収賄や従業員による不正などの事件もアジアでは頻発している。こうした中で、どのようにしてガバナンスを構築すればいいのだろうか。

山﨑氏は、「大切なのは、従業員一人ひとりの意識付けです。国によっては当局への贈賄などが当たり前のように行われているところもあります。それに対して、『われわれはそういうことをやらない』と言い続けることが大切です。やったときのリスクを十分に理解してもらうとともに、『うちではこういうルール』と、態度で示し、従業員全員で共通認識を持つことが大事です。また、従業員の業務分掌などをきちんと文書化し、責任と権限を見える化することもガバナンス強化の一つの方策となります」と説明する。

デロイト トウシュ トーマツ リミテッド(DTTL)のメンバーファームは世界約150カ国に拡がり、そのうち日本語バイリンガルが常駐する都市は70拠点にも及ぶ。写真上はハノイ、下は2013年に進出したデロイト ミャンマー事務所

むろん、不正行為以外にも、事業を行ううえでのリスクは多い。金融機関であれば与信のリスクもある。中堅中企業がM&Aでアジアの企業を統合する例も増えている。「財務諸表も日本の基準とは異なります。利益と一口で言っても、その意味が日本とは異なることもあります」。山﨑氏によれば、アジアでは同族企業も多く、グループ企業内での利益や損益のつけ回しなどを行っている例も多い。正しい判断をするためには、どの数字を見るべきなのか、注意が必要だという。「財務諸表はもとより、地政学的なリスクも含めて、必要な情報を入手するために、どのような動きをしなければならないのか、いわば海外進出用といったリスク管理体制を新たに構築すべきです」と山﨑氏は語る。

実際に現地に進出するとなると、国境紛争やテロ、疫病、自然災害などリスクがまさに身近な問題として迫ってくる。これらが金融マーケットに影響を与えることもあれば、取引先の財務諸表、さらには自社の業務に影響することもある。「トーマツグループでは、こういった、紛争リスクや自然災害リスク等を包括的にサポートするために、グローバル クライシスマネジメントセンターをこの10月に立ち上げました。日本企業が避けて通れない課題を解決することができると自負しています」と山﨑氏は話す。

進出した国の発展に貢献するという思いが、
自社を成功に導く

山﨑氏は、日本企業におけるアジアをはじめとする海外展開を数多くサポートしてきた実績がある。海外で成功する企業のポイントはどのような点なのだろうか。

「大切なのは、やはり人と人との関係です。現地に入り、お互いに尊敬し合う関係づくりを行うことが大切です」と山﨑氏は話す。日本人が経営者として現地に赴き、管理する時代は過去のものになっているという。大切なのは、現地にいる人の中に、自社の考え方を理解したマネジメント層を育てていくことだ。そしてその人材がグローバル人材となり、逆に日本に赴任するといったことで、企業自身がさらに成長するよい循環が生まれるという。「そのためには、日本のトップマネジメントなど、責任と権限のある人材がきちんと現地を訪問することも大切です。現地の従業員との一体感の醸成、当局とのネットワークの構築やマーケットの熱気等も感じることができるでしょう」。

「せっかく人材を育成しても、他社に引き抜かれる」と懸念する声もある。「それに対して私は、優れた人材を輩出するのも、その国に進出する企業の使命ではないでしょうか、とお話ししています。進出した国の発展に貢献することが、ひいては日本の成長、自社の成長につながります」と山﨑氏はその思いを語る。「ただし、現地に進出するといっても、知っていればやらずにすんだ失敗をわざわざする必要はありません。過去の事例など、日本にいながら手に入る情報もたくさんありますので、まずはこれらを活用すべきです」。

山﨑氏のように多くの企業の成功、失敗の事例の知見を備えたプロフェッショナルに相談するのも賢明だろう。

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