希望は「専業主夫/婦」、社会より家が好き 夫も妻も働きたくない時代のイス取りゲーム

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専業主婦システムの歴史的起源についてはともかく、「専業主婦って結局女性が得してるんじゃね?」っていう感覚が普及していることは事実だろう。そして、そういう感覚の基層には、「社会(仕事)ってすばらしい」から「家にこもっていたい」への推移がある。

そもそも、仕事っていっても暗い話題ばっかりだ。リストラ、派遣切り、ブラック企業……流行語だけを追っていっても口元が引きつりそうになる。一方 で家事労働のほうは昔に比べて随分と楽になっている。洗濯機? 食洗機? そんなの古い古い。今ではルンバくんがお掃除までしてくれる時代だ。ついでに面 倒くさい近所付き合いも減って、かといって狭苦しい世界に閉じ込められてしまうでもなく、ネットを通じて世界中とつながっていられる。社会進出は女性に とって、もはや好ましい選択肢じゃなくなっているのだ。

でも、ここで立ち止まって考えてみてほしい。こういった社会と家庭を前提にしたとき、社会に出ずに家にこもりたいと思うのははたして女性ばかりだろ うか? 答えはもちろん否。男だって家にこもりたい。コンサルタントの若新雄純が提唱する「ゆるい就職」(週休4日などで働く)が最近話題を集めているの も、男女を問わず、なるべく働きたくないという若者意識の表出だろう。

働きたくない、妻に稼いできてほしい…?

この意識はライフコースについても見ることができる。2010年の「出生動向基本調査」によると、専業主婦志向回帰の影響で専業主婦コースを希望す る女性が19.2%もいるのに、パートナーに専業主婦コースを希望する男性はというと10.9%にすぎない。つまり、男性のほうは女性に働いてほしいと 思っているわけで、「男なのに働いていないの?」という社会の固陋な圧力を抜きにすれば、働きたくない、妻に稼いできてほしいと思っている男性もかなり増 えているんじゃないかと思う。

こうして見てみると、若い女性における専業主婦志向回帰というのは実は、誰もが働きたくないという社会においてカップルが専業主夫/婦のイスを取り 合っているという構図の一角なのかもしれない。もしこれからも職場が魅力的なものにならないとすれば、フェミニストこそ、女性が専業主婦の座を手に入れる ことを喜ばなきゃいけないのだろう。
 

(週刊東洋経済2014年10月11号)

榛原 赤人
はいばら あかひと / Akahito Haibara

1988年生まれ。都内某大学院の社会科学分野博士課程に在籍。17歳の頃から結婚をめぐるもろもろに関心を持ち、婚活ブーム以降は、その思想的背景に注目して、机上での結婚探求を行っている。
 

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