産業天気図(パルプ・紙) 内需は微増見通しも輸入増で需給悪化、減産で市況維持に努力

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再編を経て王子製紙、日本ユニパックホールディングの2強体制が確立した製紙業界。メーカーの過当競争体質が改善に向かい、価格支配力が強まったことで、2002年秋にはデフレ化での洋紙値上げを実現した。しかし、ここにきて輸入品増加が新たな脅威として業界を悩ませている。
 2003年の内需について、業界団体である日本製紙連合会の年初予想は、洋紙が0.1%増、板紙が0.3%減、合計で0.1%減というもの。洋紙が3年ぶりにプラスに転じるものの、板紙が依然マイナスから脱せず、全体でも戦後初の3年連続マイナスとの読みだ。足元までの動向から判断しても、今年の洋紙の内需はほぼ連合会の予想通り、前年比で横ばいから微増に落ち着きそう。ワールドカップ特需の剥落や広告出向低迷を受け新聞用紙が減少、また包装用紙も需要減が厳しいが、印刷情報用紙が増加して補う。印刷用紙では出版業界向けは不調が続くが、チラシ・カタログ向けが堅調に推移する。また、情報用紙もPPC用紙が順調に伸びている。板紙の内需は、段ボール原紙で加工食品用等が堅調で、前年比横ばいで推移する模様だ。
 一方、2002年に増加した輸出は、2003年度は減少に転ずる。原料古紙高を勘案してメーカーは新聞用紙輸出を制限、アジアの紙市況も回復感が乏しいこともあり、洋紙輸出全体では1~8月までの累計で2002年を約6%下回って推移している。板紙輸出は原料古紙高が厳しいことや、輸出先の自給率の高まりを受けて、1~8月累計で前年比58.7%と大きく減少している。
 需給は悪化している。連合会調べでは、8月末の在庫率(輸出含む出荷高÷月末在庫高)は、紙が94.7%、板紙が61.4%と、それぞれ2002年末の81.1%、56.6%から悪化した。これは輸出減に加え、昨年秋に印刷情報用紙の値戻しが行われたことも呼び水となって海外からの輸入品が増加したため。北欧から上質紙などが輸入されているほか、インドネシア、韓国などからPPC用紙の輸入が増えている。
 市況は、2002年末に印刷情報用紙、衛生用紙を値上げし、以来価格を維持している。しかし、輸入増の悪影響は避けられず、輸入紙との競合品種を中心に流通段階での弱含みもみられ、大手中心に減産で需給引き締めに努めている状況だ。ただ、10月から値上げの方向で交渉中であった段ボール原紙は、値上げはほぼ浸透する見通し。原料古紙高という明確な値上げ理由があり、大手メーカーの足並みが揃ったこと、早くから減産で在庫調整に努めていたことが奏功した。
 市況、需給面では不安の芽が生じつつあるものの、業界全体の業績は大幅増益の見通しだ。会社計画ベースでは、洋紙大手6社(王子・日本ユニパック・大王・三菱・北越・中越)の2003年度経常利益は、前年比で582億円増加。増益要因の内訳では合理化が約360億円、昨秋の価格戻しの通期寄与が約270億円と大きく寄与する。一方、減益要因は原価燃料高が中心。会社別にみると、リストラを急ぐ大手2強の増益幅が大きい。
 連続大幅増益が期待できるのが、業界トップの王子製紙。2003年度業績は、昨年下期値戻しの通期寄与と人件費一段圧縮で、経常益720億円と最高益水準に達する見込み。会社は、中期計画の最終年にあたる2004年度経常利益1000億円を目標として掲げる。洋紙市況の維持、板紙の値上げ浸透、合理化の積み増しが1000億円到達のカギを握る。日本ユニパックも、2003年度経常利益560億円と連続大幅増益の見込み。同社の中期計画目標も、国内生産体制の再構築とリストラが中心で、王子製紙を追って1年遅れで2005年度経常利益1000億円を目指す。
【水落隆博記者】

(株)東洋経済新報社 電子メディア編集部

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