産業天気図(医薬品) 国内市場は成熟化、グローバル展開中の大手は成長維持

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2003年度の医薬品業界は、2年に1度行われる薬価引き下げがないものの、医療保険制度の改正により出足はマイナスの影響を受けた。
 少子高齢化に伴う医療保険財政の逼迫により、政府は保険制度の見直しを進めている。昨年10月には、70歳以上の高齢者が医療機関で支払う自己負担に関して、従来までの定額制がなくなって、かかった医療費の1割を定率で負担することになった。また高所得の高齢者の場合、負担は定率の2割に増えた。さらに今年4月からはサラリーマンの自己負担が2割から3割に引き上げられた。
 制度改革により受診が抑制される傾向も僅かながら表れた。クレコンR&Cが取りまとめている医療用医薬品卸業界全体の市場動向のデータによると、医薬品卸の売上げは今年の4~8月で対前年同期比0.1%のマイナスとなった。8月単月で見ると前年同月比0.2%のプラスに転じており、徐々に患者が戻ってきた模様だが、売上げ増が期待されにくくなっていることに変わりはない。
 一方、コスト面に目を向けると、研究開発費は研究の高度化により高騰し利益が出にくくなっている。市場が成熟しつつある国内のみで事業展開をしている中堅以下の医薬品メーカーにとっては厳しい状況といえそうだ。逆に、グローバルに展開する強い薬品を抱える大手メーカーは業績拡大を続けているいるところが多く、二極化傾向が鮮明になりつつある。
 個社ごとに状況を見ると、業界最大手の武田薬品工業は高血圧治療薬ブロプレスが好調、米国向け糖尿病治療剤ベイスンも拡大して営業増益基調を保っている。2位の山之内製薬は主力の排尿障害剤ハルナールが国内・海外で伸長する。頻尿治療の大型新薬YM905を2004年半ばにも米国に投入、英国の製薬大手グラクソ・スミスクラインを共同販促のパートナーに迎え、中期的な成長に期待がもてる。
 一方、3位に転落した三共は厳しい。主力の高脂血症治療薬メバロチンが国内で特許切れとなり、今年7月から後発品が続々と登場している。また研究開発費の増加を吸収できずに今期、来期と2期連続で営業減益を見込んでいる。しかし、その後は血圧降下剤オルメサルタンの拡大とリストラによるコスト削減で反転増益を目指している。
 第一製薬は前期、実に48期ぶりの減収減益になった。今期も研究開発費の増加が響いて営業減益の見通し。スイスの製薬大手ロシュグループ傘下に入った中外製薬は、旧日本ロシュのインフルエンザ治療薬タミフルが上乗せされることや、合併による生産・研究拠点の統合でコストを削減して増収増益基調に入っている。
【藤尾明彦記者】

(株)東洋経済新報社 電子メディア編集部

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